ミン:
オーヴェの姿を通して思ったのは、年をとってもなお穏やかにいるのは、実は難しいことなのではないかということです。肉体的にも衰えを感じていきますし、愛する人に先立たれてしまうこともある。監督ご自身は、心豊かに年老いていくために大切なことは何だと考えますか?
ハンネス・ホルム監督:
ありふれたアドバイスかも知れないけれど、やはり大切なのは好奇心を持ち続けることだと思います。好奇心を持っていれば、愛にだって近づいていける。もし、幸せな人生を何かに例えるなら、やはり“静かな川”だと思うし、僕の人生もそうあってほしいと思うけど、その川にだってところどころには滝があっても良いと思う。とにかく、好奇心と繋がっていればエネルギーも湧いてくるし、体の疲れや衰えを気持ちが癒してくれると思うんです。
ミン:
その通りですね!素敵なアドバイスをありがとうございます。最後の質問になりますが、オーヴェの人生を描いた本作は、隣人達との触れ合いを描いた人間ドラマであり、親子愛と夫婦愛を描いた美しいラブストーリーでもあり、人間の滑稽さを笑いに変えるコメディでもあります。多くの人の人生は、さまざまなストーリーで形成されていますが、監督ご自身の人生を映画化するとしたら、どんなストーリーを強調しますか?
ハンネス・ホルム監督:
実は、『青空の背後』(2010)という作品で自分の人生の一部を映画化しているんです。この作品のストーリーは僕が17歳の頃の経験に基づいているのですが、撮っているときに、「ああ、ずっとこの瞬間を撮っていられたら楽しいだろうな」と感じるほど、人生のなかでもっとも興味深い時期でした。この年頃は、自分のなかに子どもっぽい部分を残しつつ、大人として行動をしたがるような微妙な時期です。だけど、大人になることがそんなに良いこともでないと気づき始めたときには、もう子ども時代にも戻れなくなっている。僕は17歳で俳優デビューをして大人の世界に入っていったのですが、いつもそんな感覚のなかで右往左往していました。もし、17歳の頃の感覚を誰もが持ち続けて生きていけたら、今よりも紛争のない世界になっていたんじゃないかな。
ミン:
大変興味深いお話です。『青空の背後』は、2014年に日本で開催された「スウェーデン映画祭」で上映された作品ですね!ぜひ、また日本で上映されることを願っています。本日は貴重なお話をありがとうございました!
2016.11.2 取材&TEXT by min
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2016年12月17日より全国順次公開
監督・脚本:ハンネス・ホルム
出演:ロルフ・ラスゴード/イーダ・エングヴォル/バハー・パール
配給:アンプラグド
59歳になるオーヴェは、かつては町内の自治会長を務め、近所では規律に厳しい人間として知られていた。しかし、年を取るごとに気難しさに拍車がかかり、今では町の皆に厄介がられている。そんなある日、オーヴェは43年間も務めた鉄道局から解雇されてしまう。愛する妻も数年前に他界しており、孤独に耐え切れなくなった彼は首つり自殺を図るが、近所に引っ越してきたパルヴァネ一家の車がオーヴェの家の郵便受けにぶつかって、自殺どころではなくなってしまう。烈火のごとく一家を怒鳴り散らしたオーヴェだが、その日をきっかけにパルヴァネ一家との距離が縮んでいき、彼の心にも少しずつ変化が生まれていく…。
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