全編が“動く油絵”で構成された圧巻のアートサスペンス映画『ゴッホ〜最期の手紙〜』。本作に日本人で唯一参加した女性画家、古賀陽子さんにインタビューさせていただきました!西洋美術史において最も影響力のある芸術家と評されるフィンセント・ファン・ゴッホの死の真相に迫る本作は、ダグラス・ブース、ヘレン・マックロリー、シアーシャ・ローナン、エイダン・ターナーといった俳優達による実写映像をもとに、5,000人以上の応募のなかから選ばれた125名の画家による62,450枚もの作画によって綴られています。にわかには想像しがたい制作の裏側や、古賀さんが本作を通してゴッホに抱いた思いなどを伺いました。
PROFILE
1986年、兵庫県西宮市生まれ。2005年〜2006年、イギリスのThe University College for the Creative Arts(現UCA芸術大学)、foundation courseにてファインアート、デザイン、版画など美術全般の基礎を学ぶ。2008年〜2009年にはイタリアのフィレンツェ国立美術大学にてフ ァインアートと解剖学を学びながら、並行してマドンナーラ(ストリートペインティング)活動を行う。2010年〜2013年にはイタリアRussian Academy of Art in Florence(Florence Academy of Russian Art)にて古典的なロシアの技術に基づく油絵、ドローイング、解剖学、構図などを修習。現在は、兵庫県西宮市を拠点に国内外で活動中。
ミン:
実際に俳優が演じた映像をアニメーションに加工するだけでも斬新なのに、全編がゴッホ調の油絵で制作されているなんて、とんでもない映画だと思いました(笑)。本作の企画を初めて知ったときは、どんな感想を持ちましたか?
古賀陽子さん:
本作の企画、更に画家を募集している話を聞いた瞬間から「早くこの映画を観たい!…というか、自分も制作に参加したい!」と思いました。これまでにありそうでなかった、絶対良い映画になるだろうという予感でいっぱいになりました。
ミン:
ワクワクする気持ちが大きかったんですね。PAWS(ペインティング・アニメーション・ワーク・ステーションズ)という本作のために開発されたシステムを使って油絵制作をされたそうですが、これはどういったものでしょうか?
古賀陽子さん:
1人に1部屋ずつ、ライティングとカメラがセッティングされているスペースが割り当てられ、そこで絵を描いていました。おそらく、その作業環境自体をPAWSというのだと思います。キャンバスではなく木製のボードに油絵具で描いていくのですが、最初にシーンの基本となる絵を描いて、次に動く部分だけを削り取っては、上から描いて連続するシーンにしていくという作業の繰り返しでした。
ミン:
そんな風に作業されていたのですね。ほかのアーティストとタッチを統一したり、絵の整合性を図ったりすることも必要だったのではないでしょうか。
古賀陽子さん:
もちろん基本的には全員がゴッホの絵を目指して描きますが、どうトレーニングをしても個性は出てしまいます。なので、できるだけ1人が描くシーンは固められていました。たまに、1つのシーンを複数の人間で手掛けることもありましたが、その際は上司が「この人のタッチに合わせて」という指示を出して、ほかの人がその人の画風に合わせて描いていくという流れでした。ただ、シーンごとに微妙なタッチの違いがあるのも、人が手掛けたという味や個性になっていると思うんです。
ミン:
たしかに、ゴッホ調という統一された世界のなかにも、たくさんのアーティストの個性を感じるところが本作の魅力にもなっていますね。古賀さんは、世界中から集まったアーティストのなかで、日本人唯一の合格者ですが、合格の決め手はずばり何だったと思いますか?
古賀陽子さん:
何だったのでしょう(笑)。オーディションの流れとしては、まずは書類審査に自分の作品データをメール添付で送って、合格後にポーランドまで実技審査を受けに行きました。内容は3日間に渡る一次試験のあと、3週間かけてゴッホ調の絵が描けるようにトレーニングを受けるというものでしたが、そこでは技術的な面と同時に“映画に関わる作業にどれだけ適応できるか”を見られているように感じました。
ミン:
現地の審査だけでも3週間以上かかったんですか。突っ込んだことを聞いちゃいますけど、渡航費や審査期間中の滞在費などは支給されたのですか…?
古賀陽子さん:
いえ、自前です(笑)。もちろん審査に受かってからは給料が支給されましたけど。でも、お金では買えない経験をするために応募したので、そこは問題にならなかったです。それよりも、審査に受かったら寮が用意されると聞いていたのに、実際は日本円で1万円くらいをポンと渡されて「これで家を決めてきて」って言われて。初めてのポーランドでそれはキツかったですね(笑)。
ミン:
土地勘のないところで家を探すのは大変ですね。ポーランドにはどのくらい滞在されたのですか?
古賀陽子さん:
トレーニング期間を含めて4ヶ月くらいです。そのくらいの期間だと、家を貸してくれるところもなかなかなくて。ネットで探したのですが、ほとんどがポーランド語で書かれていたので、探すのもひと苦労でした。
ミン:
古賀さんのほかには、どういった国のアーティストが参加されていましたか?
古賀陽子さん:
制作作業をするスタジオは3箇所あって、80名くらいのスタッフが所属するメインスタジオと、20〜30名が所属する次に大きなスタジオと、私が通っていた小さなスタジオには約10名のスタッフがいました。私の居たスタジオには、ポーランド人、アメリカ人、スペイン人、マケドニア人のアーティストなどがいて、男女比は半々くらいで18歳から40〜50代と年齢もバラバラでしたが、良い人ばかりでした。
ミン:
10名でもそれだけ国際色豊かだったんですね。作業の合間はどのように過ごされていましたか?
古賀陽子さん:
少人数なのでおのずと結束が固くなって、皆で仕事の合間におしゃべりしたり、バレーボールをしたり、休みの日にはカヌーに乗ったりもしました。作業自体はそれぞれの個室で黙々とやりますし、週5日〜7日出勤で、暗黙の了解で朝9時から17時までが作業時間という感じでしたが、私は描くのがそんなに早くないので、自主的に朝8時にはスタジオに行って、平均10時間くらいは毎日作業をしていました。
続きを読む>>>>> 1 2:ゴッホのエッセンスから学び、自分なりの絵の世界を築いていきたい
2017年11月3日より全国順次公開
監督・脚本:ドロタ・コビエラ/ヒュー・ウェルチマン
出演:ダグラス・ブース/ジェローム・フリン/ロベルト・グラチーク/ヘレン・マックロリー/クリス・オダウド/シアーシャ・ローナン/ジョン・セッションズ/エレノア・トムリンソン/エイダン・ターナー
配給:パルコ
郵便配達人ジョゼフ・ルーランの息子アルマンは、父親から一通の手紙を託される。それは父の友人で自殺した画家ゴッホが、彼の弟テオに宛てたものだった。手紙を届けるためにパリへと向かったアルマンは、テオの消息を追うなかで彼もまた亡くなっていることを知る。テオが居なくなった今、この手紙を本当に受け取るべき人間は誰なのか?そして、ゴッホの死の真相とは…?
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