ミン:
作業のなかで一番大変だった思い出は?
古賀陽子さん:
カラスが飛んでいるシーンを担当したときに、最初のコマを監督達に見せてオーケーが出たので描き進めていたら、途中で監督達の意見が変わって「カラスの色は黒じゃなく青にして」って。はじめから言ってよー…(笑)。
ミン:
ひえー!どのようにご対応されたんですか?
古賀陽子さん:
カラスの色が黒から青に近づくよう、コマごとに少しずつ色を変えていきましたが、完全に最初の1コマからやり直しになったシーンもあります。監督達も、この映画の作り方は初めての試みなので、手探りで進められていたこともあって…。途中から「やっぱり変えて」ということも多かったです。言うほうは簡単ですけど、作業するほうとしては大変ですよ(苦笑)。
ミン:
「イー!」ってなりそう(笑)。
古賀陽子さん:
「イー!」どころじゃなかったです(笑)。作業に関しては、技術面はもちろんメンタル面も大事で、しんどいと感じてしまったらアウトなので、ずっと気を張っていました。ただ、3〜4ヶ月で作業が終わることが見えていたので出来たのだと思います。これが半年とか1年だったら、ちょっと自信がないです(笑)。
ミン:
普段の古賀さんの絵のタッチとゴッホのタッチはかなり違いますが、その部分で苦労はなかったのですか?
古賀陽子さん:
おっしゃる通り、私が普段描く絵はもっと写実的というか、ゴッホとはまったく違う画風で活動していました。なので、本当は劇中でモノトーンに描かれるリアルなタッチの制作担当を希望していたんです。でも、すでに担当が振り分けられていて、ゴッホ調の部分を任されました。実際はちょっと焦りましたが、やるしかないなって(笑)。ただ、ゴッホ自身もリアルに描くことを崩していった結果として辿り着いたのが、いわゆるゴッホ調といわれるタッチだと思うんですね。ゴッホ調に近づける際には、今まで勉強してきた基礎的な部分が大いに役立ちました。
ミン:
ご苦労の末に完成した映画をご覧になった感想は?
古賀陽子さん:
作業工程で実写の混じった映像を何度か観ていましたが、完成作品のDVDをいただいて自宅で観たときは、単純に嬉しいという気持ちと、ここはこうしたほうが良かったという感情が入り混じりました。実際に映画で観ると自分の担当したシーンが思ったよりも一瞬で、「あんなに苦労したのに、こんなに一瞬か」とも思いました(笑)。でも、内容的にも視覚的にも、何度観ても素晴らしい映画だと思っています。
ミン:
本作に参加されたことがきっかけで、NHKが主催するゴッホの「水夫と恋人」の全体像を復元するプロジェクトにも参加されていますね。本作をきっかけに、1つ世界が広がったということだと思いますが、この作品に関わる前と後でご自身のなかで変化したことや、ゴッホに対する印象が変わった部分はありますか?
古賀陽子さん:
本作に携わる前は、ゴッホのことを特に好きな画家として意識していたわけではありません。でも、ゴッホのタッチを学び、彼の絵を描くうちに、そのすごさを改めて感じました。ゴッホの絵は大胆で勢いがあります。ランダムなように見えて規則正しく、でも退屈にはならないリズムがある。その卓越したバランス感覚、色使いの素晴らしさにも驚きます。彼の画風をなぞらえることで、私自身の画風がゴッホ調になることはないですが、良いエッセンスを取り入れつつ、自分なりの絵の世界を築いていけたらと思います。
ミン:
大変なこともあったけれど、本作に参加されたことは古賀さんの人生において素晴らしいご経験になったんですね。
古賀陽子さん:
はい!それは自信を持って言えます。
ミン:
素晴らしいですね。ゴッホは、生前にあまり評価を受けることなく、亡くなった後に高い評価を受けた画家です。そういう人生を同じ芸術家としてはどう感じますか?
古賀陽子さん:
生きている間に評価されるに越したことはないですが、亡くなった後でも評価されるなら、私は嬉しいです。ゴッホのように、自分が居なくなった世界でも自分の思いがこれだけ多くの人々に伝わるのですから。もちろん本人は知りようがないですけど。
ミン:
確かにそうですね。切なくもあるけれど、それってすごいことですよね!最後に、古賀さん自身がこれから描いていきたい絵とはどういったものでしょうか?
古賀陽子さん:
自分が考えていることや、自分が美しいと思っているものを具象的に表現していきたいです。肖像画を描くなら、モデルの内面や纏っている空気まで表現したいし、写真よりも本人と思わせるような作品が描きたい。内面にあるものを、絵を通して表現し続けていきたいです。
ミン:
これからのご活躍が楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました!
2017年10月6日取材&TEXT by min
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2017年11月3日より全国順次公開
監督・脚本:ドロタ・コビエラ/ヒュー・ウェルチマン
出演:ダグラス・ブース/ジェローム・フリン/ロベルト・グラチーク/ヘレン・マックロリー/クリス・オダウド/シアーシャ・ローナン/ジョン・セッションズ/エレノア・トムリンソン/エイダン・ターナー
配給:パルコ
郵便配達人ジョゼフ・ルーランの息子アルマンは、父親から一通の手紙を託される。それは父の友人で自殺した画家ゴッホが、彼の弟テオに宛てたものだった。手紙を届けるためにパリへと向かったアルマンは、テオの消息を追うなかで彼もまた亡くなっていることを知る。テオが居なくなった今、この手紙を本当に受け取るべき人間は誰なのか?そして、ゴッホの死の真相とは…?
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