本作は夫のDVに怯え離婚した母と子ども達が、元夫からの執拗な接近に苦悩するストーリー。今回制作にあたり、監督は多くの被害女性の方に会って、さまざまな証言などを得て、この映画をどのように作るかということを考えたそうです。日常生活の中に潜む恐怖をリアルに描いた本作で、監督を務めたグザヴィエ・ルグランさん、名演を見せたトーマス・ジオリアさんにお話を伺いました。
<PROFILE>
グザヴィエ・ルグラン監督
1979年フランス生まれ。フランス国立高等演劇学校で演劇を学び、俳優としてチェーホフ、シェイクスピア、ハロルド・ピンター、ミシェル・ヴィナヴェール、ペーター・ハントケなどの作品で舞台に立った。また、映画ではフィリップ・ガレル監督、ローラン・ジャウィ監督、ブノワ・コーエン監督、ブリジット・シィ監督などの作品に出演。2012年の短編映画『すべてを失う前に』で初めて監督を務め、この作品は100を超える映画祭に選出され、第86回アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされたほか、第35回クレルモン・フェラン国際短編映画祭において4部門で賞を獲得し、第39回セザール賞短編映画賞を受賞するなど、いくつもの賞に輝いた。『ジュリアン』は、『すべてを失う前に』と同じテーマで同じキャストを使って長編化した渾身の一作となっている。
トーマス・ジオリア
2003年フランス生まれ。幼い頃に地元の小さな町の劇場で多くの劇を鑑賞した後、演技を学び始め、本作のジュリアン役に抜擢、長編映画デビューを果たす。今後の公開待機作に、 エマニュエル・ベアールとベアトリス・ダルが出演する“Adoration(原題)”がある。
マイソン:
女性のほうだけに寄った見方ではなく、ちゃんといろいろな視点で撮られていると思いました。作る上で気を付けたポイントはどういう点でしょうか?
グザヴィエ・ルグラン監督:
この映画はとても構成がしっかりと考えられていて、さまざまな人の視点から撮られています。一見子どもの視点から撮られているようにも思えるんですけど、実際の構成ではメインはアントワーヌ(父)の行動をフォローしているんです。このアントワーヌという人物は、自分の周りの者達を操ることによって、自分の欲しいものを手に入れている。まずは判事を操る、それから子どもを操る、そして最後は妻を手に入れようとするという風に、アントワーヌを巡っていろいろな動きをフォローしていくわけなんです。冒頭に家庭裁判所の判事のシーンがあるんですが、結局のところ観客には判事のように中立な立場を取って欲しいと。母と父のどっちが本当のことを言っているんなんだろうと冒頭の部分では全くわからないんですけど、こういった中立的な判事の立場というのが、総合して観客にも求めている点だったと思います。
マイソン:
トーマスさんが演じたジュリアンは、お父さんのことを“あの男”という表現で呼んでいましたが、演じる上で、お父さんとお母さんについてどう思って演じていましたか?
トーマス・ジオリアさん:
パパとは言えないほど父親のことを嫌っていて、その嫌悪感があるので、名前を発するのも嫌だったんです。父親に対する嫌悪感が“あの男”と呼ばせた。それから母親とは共通点も多いんですけど、母も父を同じように嫌っているということで、そういった言葉が出てしまったと思います。
マイソン:
すごく緊張感のある重いシーンばかりだったんですけど、撮影中、楽しかったことはありますか?
トーマス・ジオリアさん:
休み時間も含め撮影中ずっと、スタッフ、キャスト全員が楽しく和気あいあいとしていて、皆で遊んでいたという良い思い出しかないです。皆すごく仲が良くて、良い関係でした。この映画を観て想像するのとは逆だと思うんですけど、予想に反して撮影現場は楽しくてしょうがなかったです。ドゥニ・メノーシェ(アントワーヌ=父役)は大きなクマさんのようですが、実はものすごくおもしろくて、お笑い系の冗談ばかり言っているような人で、最高でした。
マイソン:
ドゥニさん、おもしろい方なんですね!監督は俳優もされていますが、重いシーンをやらなければいけないテンションを保ちつつ、演じている側がしんどくならないようにとか、現場の雰囲気づくりで、俳優として監督業に活かせる部分はどんなところでしょうか?
グザヴィエ・ルグラン監督:
現場の雰囲気づくりには私もかなり気を遣いました。難しいシーンを演じる時に俳優に要求されるのはすごく感情的な部分で、それを引き出すのは非常に難しいと思うんです。でもそういう時に役者がリラックスして自分の感情を思いっきり出せるようにするには、安心できるような楽しい和やかな雰囲気の中からしか出せないと思っています。フランス語で役を“演じる”は“jouer”と言って子どもが遊ぶ時の”play<英語>”の意味なんです。映画の中に出てくるシーンは苦しみを描いていて重いテーマが多いんですけれど、本当に役者が楽しみながら遊びながらその人物に命を与えて演じられるようにしたいと思いました。
―最後にひと言―
グザヴィエ・ルグラン監督:
私はもともと映画が大好きで、この映画を皆さんが気に入ってくださることを心から願っています。映画を観た時、映画館を出ていく時に観客の方が来た時とは違う何かを感じて、ちょっと変化があって、少しでも私から何か影響を与えることができればそれが本望です。例えばコメディであれば最初から最後まで笑い転げるというような体験でも、衝撃的な内容でショックを受けるような体験でも、そういった体験を私の映画を観ることで得られたらと思います。この映画は本当にそういうのにピッタリです。
トーマス・ジオリアさん:
すごく美しく知的な映画で、ある人にとっては非常に学ぶことも多く、参考になることも多い映画ですので、ぜひ観て欲しいと思います。
マイソン:
最後にすみません!トーマスさんのトレーナー、それはどうしたんですか?
トーマス・ジオリアさん:
日本に行くからと盛り上がって買ったわけでなくて、日本に来る前にフランスで買ったんですけど、純粋にこのトレーナーのデザインが気に入ったんです。選んでみたらたまたま「寿司、京都」と書いてあったんです(笑)。
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『ジュリアン』
2019年1月25日より全国順次公開
監督・脚本:グザヴィエ・ルグラン
出演:レア・ドリュッケール/ドゥニ・メノーシェ/トーマス・ジオリア/マティルド・オネヴ
配給:アンプラグド
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