全米を揺るがした実際の事件を映画化した本作は、2013年サンダンス映画祭で作品賞、観客賞をダブル受賞。全米では7館の公開から1063館にまで拡大公開されました。今回は27歳にして世界中から注目を浴びているライアン・クーグラー監督にインタビュー!
1986年5月23日、カリフォルニア州生まれ。南カリフォルニア大学で映画&テレビ製作の博士号を取得。2011年、短編学生映画『FIG』で、ディレクターズ・ギルド・オブ・アメリカの学生映像作家賞、2011年度アメリカン・ブラック映画祭のHBO短編映像作家賞を受賞し、同作はHBOで放送された。2011年1月、彼が映画学校の最終学期在籍中、フォレスト・ウィテカーの製作会社シグニフィカント・プロダクションズがクリエイティブな形でコラボレイトできる若い映像作家を探しているとき、彼の名前があがり、いくつか出した企画のなかで『フルートベール駅で』の映画化が進み、本作にフォレスト・ウィテカーが製作として名を連ねることとなった。
2014年3月21日より全国公開
監督:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン/オクタヴィア・スペンサー/メロニー・ディアス/ケヴィン・デュランド/チャド・マイケル・マーレイ
配給:クロックワークス
本作は2009年元旦に実際に起きた事件を映画化。新年を迎えたばかりのサンフランシスコのフルートべール駅ホームで、22歳の黒人青年オスカーが警官に銃で撃たれて死亡。なぜ丸腰だったオスカーに悲劇が起こったのか。本作は、大晦日から元旦にかけて、オスカーが3歳の娘や家族、友人と過ごした最期の1日を描く。
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マイソン:
オスカーは過去に過ちを犯しましたが、生活を立て直そうとする姿を観て、本質はとても優しくて誠実な人物だと思いました。彼のキャラクターを描く上で気を付けた点はありますか?
クーグラー監督:
実在の人物なので彼についてリサーチして取り入れましたが、一番意識していたのは若さなんです。オスカーという人間像を描く上で一番重要なポイントだと思ったので、そこだけはしっかり押さえようと思いました。彼は亡くなったとき22歳でしたが、自分が22歳だったときを思い返してもとてもおもしろい年代で、すごく成長する時期ですよね。彼には既に娘がいて、彼に頼っている彼女がいて、お母さんがいる。1年半服役していたあいだは家族を支えることができなかった時期もありました。お話を伺うと、ちょっとキレやすいところも、柔和なところもあって、実はいろんな顔を持っていた方らしいんです。だからもし最期の大晦日の一日が主に友人と過ごしている一日だったら、違う面が前に出ていたかも知れません。でも母や恋人、娘と過ごしていたから、どちらかというと柔らかくて優しい部分が出ていたのではないでしょうか。大晦日は先のことを考える日でもあるけれど、彼は人生の地点においてもこれからどうしようという時期でもあったと思います。その辺をしっかり描きたいなと思いました。
マイソン:
電車内の乱闘のあと警察官が来たときに、乗客が皆一部始終を携帯で撮影していてそれがのちに証拠や、世間の関心を引く役目を果たしたと同時に、やじうまとして撮影しているというプラスとマイナスの二面性を持っているように思いました。監督はあの事件自体を知ってどう感じましたか?
クーグラー監督:
実はうちの両親ともエモーショナルな性格なので、僕も二人の血を受け継いでいます。自分で言うのもなんですが、すごく思いやりがある方で、人と共感するタイプなので、実際に初めてフッテージを観たとき、そしてその後数日間は本当にボロボロでした。悲しみ、怒りを感じたのはもちろんでしたが、一番常に感じ続けていたのは無力感だったんですね。今もそうなんですが、自分と同じような方が命を落とされてとても無力感を覚えました。年頃も同じだし、あの事件が自分の友だちや、自分自身に起こってもおかしくなかった。だから「自分だったら」ってすごく感じました。フラストレーションや怒りを感じて行動を起こす方も多かったなかで、自分も何か行動したいと思ったときに、今署名運動、講義活動をしているところに名前を連ねてもオスカーは蘇らないのはわかっていたし、じゃあ未来のために何ができるんだろうと考えました。このままだと、もしかしたらまたオスカー・グラントに起こったのと同じような事件がどんどんどんどん起きてしまうわけですよね。その未来の事件を防ぐために自分は何かできないかと考えたときに、幸いなことに私には映画作りというアートフォームがありました。映画作家であるということは“声”を持っているということだから、その“声”を使ってこの物語を綴ろうと思ったのが、実はこの映画を作った一番のモチベーションです。
マイソン:
アメリカでどれくらい人種差別が残っているのかという実状は映画などで知ることが多いのですが、本作を観てまだ現代でもかなり人種差別があるのかなと思いました。アメリカ以外の国の方にはどういうところを観て欲しいですか?
クーグラー監督:
たとえ他の国の方でもオスカーに共感してもらって、彼が住むコミュニティやエリアに、自分のコミュニティを重ね合わせて観て感じてもらえると嬉しいです。実際に海外の方に言われて嬉しかったんですが、「自分たちのコミュニティのようだ」とか、「似たようなことが起きる」「オスカーのような奴を知ってる」とか、そういう風に感じてもらえたら嬉しいです。
監督はとても穏やかでお茶目な方で、日本に到着してすぐに取材を何本もこなすというハードなスケジュールだったようですが疲れも見せず、さすが若いと感じました(笑)。今回実際にお話を聞いて、監督が語っているように、監督自身がオスカー・グラントに共感し、身近な人物として描いていることで、より私たちにもリアルに伝わってくるものがあったのだと実感しました。今回が初来日なので、お友だちから「日本で何をすべきかリスト」をもらい、たくさんの項目が書いてあったそうですが、今回はあまり時間がないけど六本木と秋葉原に行きたいとおっしゃっていました。次作は、実在の人物ではないけれどボクサーものの脚本を書いているそうで、これから映画化されるか協議していくとのことでした。今後の活躍も楽しみな監督です。
2014.2.10 取材&TEXT by Myson