これまで脚本を手掛けた多くの作品が米アカデミー賞ほかさまざまな映画賞を受賞してきたポール・ハギス。監督も務めた『クラッシュ』でみせた見事な人間描写と、複数のストーリーが交錯する構成は、本作『サード・パーソン』にも活かされています。一度観ただけでは答えが見つからないし、簡単には理解させてくれない本作。監督はどういう意図、思いで本作を作ったのか、電話インタビューでお話を聞きました。お話を聞いて「なるほど」とスッキリしましたよ(笑)!
PROFILE
1953年、カナダのオンタリオ生まれ。クリント・イーストウッド監督作『ミリオンダラー・ベイビー』(脚本担当)と、監督、脚本を務めた『クラッシュ』が2年連続で米アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。『クラッシュ』ではアカデミー賞最優秀脚本賞も受賞し、監督賞を含め4部門にノミネート。さらに同作はインディペンデント・スピリット賞、全米映画俳優組合(SAG)賞®、英アカデミー賞(BAFTA)賞など多数受賞した。ほかにも『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』の脚本や、『007/カジノ・ロワイヤル』では共同脚本、テレビシリーズ『crash クラッシュ』シーズン1、2では製作総指揮を務めた。
2014年6月20日より全国公開
監督・脚本:ポール・ハギス
出演:リーアム・ニーソン/ミラ・クニス/エイドリアン・ブロディ/オリヴィア・ワイルド/ジェームズ・フランコ/モラン・アティアス/マリア・ベロ/キム・ベイシンガー/ロアン・シャバノル/デヴィッド・ヘアウッド
配給:プレシディオ、東京テアトル
ピューリッツァー賞受賞歴のある小説家マイケルは、最新作を書き終えるためにパリのホテルのスイートルームにこもっていた。彼は妻とは別居中で、野心的な作家志望のアンナと不倫関係にあった。一方ローマでは、いかがわしいアメリカ人ビジネスマンのスコットがファッションブランドからスーツのデザインを盗もうとしていた。そしてニューヨーク。昼メロに出演していた元女優のジュリアは、6歳の息子をめぐって有名アーティストである元夫と親権を争っていた…。
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マイソン:
今回脚本作りにとても苦労され50回は草稿を書いたと資料から知ったのですが、監督は「サード・パーソンとは」という定義の答えは明確にあって、本作を撮られたのでしょうか?
ポール・ハギス監督:
どの関係にも第三者、サード・パーソンがいるわけで、自分たちが思っている人とは違っているということがとても多い。人間関係のなかで誰かがコントロールする役割を果たしているんだけれど、それは実は多くの場合、私たちが思っている人とは違ったりするんですよね。本作では、それを掘り下げたかったというのが1つ。あとリーアムのキャラクターで言えば、自分の感情から距離を置いて、日記、日誌的なものを書くときに“三人称”になってしまう男ってものすごくおもしろいなと思ったんですね。我々物書きは自分の人生や、自分たちの人生における痛みとかを、さまざまな瞬間を掘り下げながら探索、模索して書いていくんだけど、それを本であったり、そういう形に落とす段階で三人称にしてしまうところがあって、それに慣れているようなところがあります。僕もそうです。
リーアムのキャラクター、マイケルはあまりにもそういうことに感覚が麻痺してしまっているがために、自分の人生が自分が書いているキャラクターやストーリーに反映されていて居心地が悪いわけなんだけど、三人称にすることで安全圏にもしていると言えます。でもキャラクターたちが、彼が自分自身で見ようとしない真実に彼を導くということになるんだけどね。
マイソン:
深いですね!『クラッシュ』も今作も人間描写が素晴らしかったのですが、映画作りのきっかけとなる人間のしぐさや行動などで普段特に気になるのはどんな点でしょうか?
ポール・ハギス監督:
実は今回、脚本執筆にすごく時間がかかった理由の1つが、他人について書いたわけではなく、自分について書いたがためにこれだけ時間がかかってしまったんです。『クラッシュ』と一緒で、常に僕が書くものは自分を掘り下げて生まれてきたものです。キャラクターのインスピレーションは、ちょっと耳にしたこと、人生のちょっとした瞬間から得たりします。例えば、女性とのすごく辛い別れがあって、彼女が目に涙を浮かべながら別れの言葉を口にしていたときに、僕の靴紐が緩んでいることに気がついてかがんで結んでくれたんですね。その瞬間とても胸が痛かったけど、一方で僕はこれを映画のなかで使うなって思いました。だから自分のことをどんどん深く深く深く掘り下げていくって作業なんです。マイケルと同じで僕も自分の脆さを自分の防護壁に使うことが多くて、ある種こういう風に見せているけど、その下にどんなものがあるのか理解しようとするプロセスなのかも知れないですね。
自分と全く相容れない、考え方が全く違うキャラクターの視点から書くのはすごく好きな作業で、『クラッシュ』だったら二人の車泥棒のような自分と全然違う存在です。彼らはどんな人間なんだろうっていうところから書いていくんですが、今回もそういうのがたくさんありました。例えば、恋に落ちて誰かをすごく好きになって、愛であまりにも何もかも見失っている人がいたとしても、もしかしたら僕の方が間違っていて、彼らの方が正しいのかも知れないと思ってみたり。あるいは僕は自分のことを信頼のおける人間だと思いたいけれど、もしそうじゃなかったら、人のことを裏切ってしまうような人間だったら…、っていう風に考えていくわけですね。居心地の悪いところではあるけれど、居心地の悪い気持ちでいるときに僕は一番筆が進むんですよね。だから常に自分のことを掘り下げて書いているんです。
マイソン:
監督は自分のことよりも人のことの方がよくわかりますか?
ポール・ハギス監督:
人のことをこうと決めつける方が、良い悪い含めて自分のことをこうだと言うよりも楽ですよね。人というのは自分の言い訳の方が、他人の言い訳よりも理解しやすい面もあるから、口論になったときにも相手の言い分を理解するより、自分の言い訳を理解する方がたやすいですよね。でも自分がいつもおもしろいと思うのは、そんな状況のなかでも相手の言っていることの方が正しかったらどうなるかなって思うことなんです。
マイソン:
なるほど! 監督もリーアムが演じていた役柄と同じように、次作への期待を常に持たれてプレッシャーを感じるのではないかと思います。正直苦しいと感じることはありますか?そういうときの対策はありますか?
ポール・ハギス監督:
そういうときの対策は無いですね。良いストーリーを見つけ、それをできるだけ良い最初の形で綴りたいという思いだけです。プレッシャーは感じるけど、それは外の世界、他人からのプレッシャーではなくて、自分自身のなかで継続して挑戦していきたいという思いからくるプレッシャーです。簡単なストーリーをうまく綴っていければいいんだろうけど。僕はどうも深く掘り下げるようなストーリーを伝えたいと思っているみたいで、何か自分が居心地が悪くなるようなものを書きたいと思うし、遊び心を持っていろいろなことをやってみたい。脚本のルールだって自分はよく知っているけれど、そのルールを覆したいと思ってしまうタイプなんですよね。だからこそ『サード・パーソン』はいろいろな人が観てナーバスになるんじゃないかな。この作品で僕は全ての答えを皆さんに提供していないし、映画のあとにお友達とディスカッションしたくなると思う。でも今そういう映画って全然作られていないし、そういう映画は皆好きじゃなくなっているのかなと思うけれど、自分はパズルのような、ちょっと皆さんを考えさせられるような、思わず友達と話して、話したことでもしかしたら答えが出てくるような映画が作りたかったんだ。
マイソン:
まさに私はそういう観方で楽しみましたよ!
ポール・ハギス監督:
それは良かった!
2014.5.30 取材&TEXT by Myson