本作は不器用な父と車いすの息子が二人三脚でトライアスロンに出場するというストーリー。この度、本作で主役のジュリアンを演じたファビアン・エローさんと、ニルス・タヴェルニエ監督が来日。お二人揃ってお話を聞くことが出来ました。ジュリアンの試練と同じく今回の撮影自体がファビアン・エローさんの大きな挑戦だったのではと思うシーンもありましたが、映画制作実現までの道のりはどんなものだったのでしょうか?
PROFILE
<ニルス・タヴェルニエ監督>
1965年、フランスのパリ生まれ。1977年に父ベルトラン・タヴェルニエ監督作で俳優デビューし、『女ともだち』『パッション・ベアトリス』『主婦マリーがしたこと』『恋の掟』『L.627』『ソフィー・マルソーの三銃士』など多数出演。その後、短編およびドキュメンタリー作品の監督として名を馳せ、2001年『エトワール』が大ヒット。2006年にフィクション映画としては初監督となる『オーロラ』を手掛けたのち、TVのドキュメンタリーを中心に監督している。
<ファビアン・エロー>
1993年、フランスのナント生まれ。ジュリアン役を探してフランス中の施設を訪ねたニルス・タヴェルニエ監督にオーディションで見出され、本作が映画初出演となる。運転免許取得をきっかけに、障がい者が自身で車の運転をするための支援教会“ハンディキャップ・モバイル”を立ち上げるなど積極的な活動も行っている。
2014年8月29日より全国公開
監督:ニルス・タヴェルニエ
出演:ジャック・ガンブラン/アレクサンドラ・ラミー/ファビアン・エロー
配給:ギャガ
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
© 2014 NORD-OUEST FILMS - PATHÉ PRODUCTION - RHÔNE-ALPES CINÉMA
マイソン:
170もの施設を回ってファビアンさんを見つけたそうですが、今回実際に障がいを持つ方を起用しようとこだわった理由は何ですか?
ニルス・タヴェルニエ監督:
このオーディションでジュリアンを演じる子を見つけるのは本当にすごく長い道のりでした。やっぱりこれだけの資質をすべて携えた子を見つけるのは、難しくて300人くらいの少年に会ったでしょうか。彼に会えたということはとてもラッキーなことでした。
マイソン:
ファビアンくんは見つけられてどう思いましたか?
ファビアン:
最初に僕に決まったと言われたときは冗談だと思って、あまり信じていませんでした。このオーディションに応募するということ自体が自分からの意思ではなくて、僕の理学療法士さんが応募してみないかって薦めてくれたことがきっかけで、最初はどちらかというと遊び半分で「自分が楽しければ良いや」くらいの気持ちで応募しました。結局僕に決まったということで、そのときは信じられなかったけど、すごく嬉しかったです。そのあとやっぱり本当の意味での仕事が待っていて、そこではふざけていられないなって感じでした(笑)。
ニルス・タヴェルニエ監督がジュリアン役に求めていたのは、イケメンでチャーミングなこと、賢さ、戦う意欲、役者の仕事に対する努力とのことでした。難しい試練でもちゃんと受け入れて、もし失敗してもちゃんと立ち直って前進できるような資質を持ち、全身から光が輝いているような、そういうポジティブな人を探していたそうです。そんな言葉を聞いたファビアンさんは喜んでいましたが、現場では監督が褒めてくれてもまだまだという謙虚さで、もっと努力をしなければいけないという思いで挑んでいたようです。
マイソン:
自転車で坂道を下りるシーンとか、撮影がすごく過酷だったと思うんですが、今回演じたジュリアンと同じように、今回出演することに対して周りの人から心配で反対されたとか、今までファビアンさんがこれをやりたいと言って家族を説得しなければいけなかったことなど、同じような経験はありますか?
ファビアン:
シナリオを読んだときに反対っていうのはなかったんです。ちょっと脚色するところもあるし、シナリオで書いてあることと現実にやらなきゃいけないことが全く同じというわけではありませんでした。でも、あの急な坂を下りていくシーンは(自分で)やった方が、きっと映画のなかに本物のリアリティが生まれるんじゃないかなと思いました。あのシーンを自分でやったってことに対してすごく満足感があります。
ニルス・タヴェルニエ監督:
もちろん彼のご両親には、あんな風に坂道を自転車で下りていくとは言っていなかったんです。もし言っていたらご両親は怯えてしまって、受けてくれないというのがわかっていましたから。僕ら自身も最初からファビアン自身をあそこで演技させるべきか100%確信していたわけではありません。でも実際にロケ現場で(父役の)ジャック・ガンブランと彼が非常に楽しそうに自転車を漕ぐのを見て、これはいけるんじゃないかなってことで、本物で撮ろうと思ったんです。スクリーン上ではすごいスピードが出ていますし、映画のシーンとしてはすごく圧倒的なものがあるんですが、周到な準備と安全確認をして、何度もリハーサルをした結果、胸をすっとすくようなシーンになったわけです。あそこであれほどのスピードで進んでいくっていうのは、2人が全幅の信頼をお互いに寄せていなければ無理で、ちょっとでもファビアンの方が違う動きをすればスリップする危険性はすごくありました。だからあのシーンは本当に2人が相互に信頼しあって一体となって実現したシーンなんです。
ファビアン:
確かに最初にこの脚本を読んだときに、何か自分の経験と似ているなって思ったんです。それは周りの人たちが反対するにも関わらず、僕は自立のため、健常者と同じように自動車免許を取りたいって言ったときに似ています。自分の思っていることを最後までやるんだって気持ちは、全く同じだなって思います。
最後にニルス・タヴェルニエ監督は、人は変われるんだってこと、人生いつでもやり直しがきくんだってことを本作で描きたかったと話してくれました。父の視点、母の視点、子どもの視点で、いろいろな観方ができる作品となっています。ぜひ大切な人と観てください。
2014.6.28 取材&TEXT by Myson