今回は、ドキュメンタリー番組の制作に携わった経験を持ち、本作で劇映画監督デビューとなる久保田直監督にインタビューさせて頂きました。震災や原発というデリケートな問題を背景とする本作で気にかけた点や、男性のプライドについて伺い、さらにドキュメンタリストとしてたくさんの情報を扱ってきた監督に情報との向き合い方について直撃しました。
PROFILE
1960年、神奈川県生まれ。大学を卒業後、1982年にからドキュメンタリーを中心にNHKや民放各社の番組制作に携わる。2007年にMIPDOCでTRAIBLAZER賞を受賞し、世界の8人のドキュメンタリストに選出される。2011年には、文化庁芸術祭参加作品『終戦特番 青い目の少年兵』(NHKBSプレミアム)を演出。2014年、『家路』で劇映画監督デビュー。
2014年9月17日ブルーレイ&DVDリリース(レンタル同時)
監督・編集:久保田直
脚本:青山研次
出演:松山ケンイチ/田中裕子/安藤サクラ/山中崇/田中要次/光石研/石橋蓮司/内野聖陽
ポニーキャニオン
震災の影響により、故郷が“帰れない場所”となってしまった家族。長男夫婦と母親は先祖代々受け継いできた土地を離れ、仮設住宅で先の見えない日々を過ごしていた。そんな彼らの元へ、20年近く故郷を離れ音信不通となっていた次男が突然帰郷した。過去の葛藤を抱えながらも故郷で生きることを決めた次男が、バラバラになってしまった家族の心を結びつけていく。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定 完成披露試写会舞台挨拶
©2014『家路』製作委員会
シャミ:
本作は原発や震災といった背景がありつつ、家族の物語が描かれていたのですが、映画全体を通して監督がこだわった点はどんなところですか?
久保田監督:
最初にこの映画を作ろうと思ったきっかけは、原発事故が立ち入り禁止区域が出てしまうほどの大きな問題になったけど、そのうちきっと風化してしまうんじゃないかと思ったんです。脚本家の方とも、自分たちが当事者意識を持ち続けないといけないはずなのに、いつの間にか他人事になっているという話をしました。それを僕らも含めてきちんと受け止めるために、今だけ観られる映画ではダメだと思いました。ということは、やはり普遍的な家族のお話という部分をきちんと紡いでいかない限りは、長く観てもらえる映画にはならないだろうというのがありました。背景があまりにも強いので、それに負けないような家族の物語をきちんと作っていくのは相当大変だし、それがちゃんとできたかというと今はまだはっきりとはわかりませんが、これからその答えが出ていくんだろうなと思っています。
シャミ:
じゃあ後世に続いてずっと観てもらえるような作品にしたかったということですね?
久保田監督:
結局まだ何も解決していないじゃないですか。そういう意味では10 年後も20年後もちゃんと観てもらえる映画にしたいと思いました。
シャミ:
なるほど。背景としては地震や原発というデリケートな部分が扱われていますが、そういった点を描く上で気を付けたところはありますか?
久保田監督:
まず撮影現場をどうするのかというのがありました。福島で撮りたいと思っていたんですけど、本当に撮って良いのだろうかと。ドキュメンタリーではなく劇映画という形で作るからには、ある意味商業映画なわけじゃないですか。そういう映画にあの福島の風景や物を借りて本当に良いんだろうかということに一番悩みました。ただ最終的には美しい大自然や誰もいない商店街に自分が立ったときに、ここで撮らなきゃダメだって確信したので、そこから先は悩まずに撮影をしました。結果としては、あそこで撮ったから良かったと言ってもらえることが多いので、良かったのかなと思っています。
シャミ:
兄(内野聖陽)は長男としての責任があって、次男(松山ケンイチ)にも村に戻らないという固い決意があって男としてのプライドが描かれているように思ったのですが、男性のプライドについて監督ご自身はどう思いますか?
久保田監督:
男のプライドということをお話する前に、今回僕が福島の農家の方と話をして、自分が希薄だったなと思ったところがあるんです。それは地方の農家の長男が背負うものの違いなんですが、農家の長男というのは、やはり先祖代々のものを守っていくという意識がすごく強いんですよ。実は僕も長男なんですけど、東京辺りだとそういう感覚ってないじゃないですか。現地の方は“墓守り”という言葉を使っていましたが、(故郷を離れた一家の長男が)もし家に帰れたら最初に何をしたいかって聞くと、お墓に行って掃除をして、申し訳ないって謝るって言うんです。そんなこと僕は考えもしませんでしたが、長男が背負う土地や先祖に対する思いというのは、本来きちんとあった方が良いのかも知れませんよね。そういう部分があって、長男として責任や、次男の自分の生き様が、男のプライドに繋がるということなんです。男のプライドってあっても良いと思うんですが、プライドだけじゃなくて自分が本当は何をすべきで、どこで誰とどう生きていくのかっていうことを一番に考えていかざるを得なくなっていくんだろうなって感じます。僕自身、男としてのプライドがないわけではないけど、それよりも大事な物があるのかなって思います。
シャミ:
逆に女性キャラクターに関してお聞きしたいのですが、登美子(田中裕子)も美佐(安藤サクラ)も現状をわかっているけど、心のどこかでストレスを抱えている様子で、男性と女性とでストレスの表現が違うように思ったのですが、女性キャラクターを描く上で何か気にした点はありますか?
久保田監督:
女性の在り方っていうのは、地方の農家の歴史的に見ても、都会の女性とはかなり違うと感じたんですよね。今はすべてが都会的な目線で物事を考えていて、その価値観ですべてを判断しているけど、本当はそうじゃないっていうところでは、女性も同じだろうと。まだ男尊女卑が残っているというわけではないんですが、地方の農家で暮らしていて被災された女性はどこかちょっと違う、おもいっきり弾けられない何かを抱えているのかなっていうのがありました。脚本家の方が東北の出身なので、女性キャラクターのその辺のことに関しては特に意識して描いてくれました。
シャミ:
監督は今までもたくさん取材をされてドキュメンタリーを制作されてきたかと思うのですが、地震や原発の問題も含めたくさんの情報が溢れているなかで、情報を入れる側はどう情報と向き合うべきだと思いますか?
久保田監督:
それってすごく難しい問題ですが、世の中の全員が自分で判断するという力がものすごく低下していると思うんですよ。考える力というか、何かもっと動物的な、プリミティブな力が今はどんどんなくなっていて「人がこうだから、こうする」ってところがどうしても多くなっていると思います。それはそろそろ歯止めをかけないといけませんよね。いろいろな情報のなかで、自分が何をピックアップして信じるのか、もしくは何も信じないのも選択肢の一つですけど、やっぱり自分で判断していくことがこれからどんどん必要というか、もうそうせざるを得ないのかなって。それは福島の原発事故のこともそうで、20km圏内の人は危ないけど、じゃあ20.100kmの人は大丈夫ですよって言われて、そこに住む人たちは「大丈夫って言われたから大丈夫」って言っていられないじゃないですか。だからそこは自分で判断していかなきゃいけないっていう世界だと思います。今回の映画で描かれているのは原発事故の問題ですけど、それ以外のことでもそういうことがいっぱいあると思うんです。それをやっぱり自分で判断していけるように、どこかで危機管理の触覚が戻ってくるようにしないとまずいかなって思います。
シャミ:
本当にそうですよね。すごく勉強になりました。では最後になりますが、トーキョー女子映画部のユーザーに向けて、本作のオススメポイントをお願いします。
久保田監督:
この映画の一番の軸になっているのが、家族って何だろうってことなんですよね。家族をすでに持っている方もこれから家族を持つという方にとっても、血の繋がりがあるから家族というわけではないこと、もちろん反発し合ったりすることもあるけど、共に暮らしていくことで家族になっていくということが、なんとなく伝わる映画だと思っています。家族とどう向き合うべきか、家族がどういう存在で、どう育てるものなのかということをちょっとでも考えてもらえるような作品であれば良いなと思っているので、そういう目線で観て頂ければと思います。
2014.8.29 取材&TEXT by Shamy