今まで『陽だまりの彼女』『ホットロード』など、恋愛映画を中心に手掛けてきた三木監督が描く本格人間ドラマ『くちびるに歌を』。心に傷を負った先生と15歳の中学生たちとが、心寄り添わせていく姿が描かれた本作ですが、監督自身はどんなメッセージを込めたのか直撃しました!
PROFILE
1974年生まれ、徳島県出身。これまでORANGE RANGE、YUI、いきものがかり、FUNKY MONKEY BABYSなど多くのミュージックビデオや、CM、ショートムービー、ドラマを手掛け、MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2005最優秀ビデオ賞、カンヌ国際広告祭2009メディア部門金賞などの受賞歴を持つ。2010年、長編初監督作『ソラニン』が大ヒット。その後も若者が主人公のラブストーリーを主に手掛け、その他監督作に、『僕等がいた(前篇・後篇)』『陽だまりの彼女』『ホットロード』『アオハライド』などがある。本作では、新垣結衣を主演に迎え『くちびるに歌を』を監督。
シャミ:
柏木先生と生徒たちとの関係性や合唱など、見どころがたくさんある作品ですが、監督が特に見せたいと思っていたのはどんなところですか?
三木監督:
原作は中学生視点で描かれた物語だったのですが、映画化にあたっては、特に柏木先生を通して大人視点を大事に描きたいと思いました。柏木は年齢的には大人ですが、大人になりきれないというか、自分の悩みに対してちゃんと向き合うことができず、悩みから目を背けて動けなくなっているんですよね。その彼女が悩む姿を大人の観客の方が観たときに、自分自身に置き換えて考えてもらえる気がしました。大人になると、確かにいろいろな悩みを見ないフリをすることもできますが、子どもたちの場合はどんなことにも一生懸命で、それぞれの悩みから目を反らさずに真剣に向き合うんですよね。その姿を見るとどんな大人でも、何か感じるものがあるんじゃないかと思いました。だから柏木は、主人公ではありますが、ある意味大人の観客代表という立場でもあるので、彼女を通して大人視点を大事に描きたいと思いました。
シャミ:
なるほど〜。柏木先生自身も問題を抱えていましたが、中学生たちも個々にいろいろと考えていて、決して全員がハッピーエンドだったわけではないと思いました。そういうところが現実的で、共感できる部分もたくさんあったのですが、敢えて現実的に見せていく上で、監督が気を付けた点や意識したことはありますか?
三木監督:
いろいろな人が持っている悩みって、実際に一朝一夕で解決できる悩みじゃありませんよね。この物語のなかでもそれは変わらなくて、例えばサトルくんは自閉症のお兄ちゃんがいる状況は変わらず続いていくだろうし、柏木先生の辛い体験もなくなるわけではありません。それでも人生は進んでいくし、じゃあ前を向いて歩いていくためにどうすれば良いのか。彼女たちのような状態になってしまうことは、確かに悲しくて辛いときもあるけど、必ずしも不幸なわけじゃなくて、そのなかで見つけられる幸せはいっぱいあると思うんですよね。だからそれぞれの悩みを解決する話じゃなくて、それぞれの悩みとどう寄り添っていくか、そしてどう前を向いて歩いていくのかという話にしたいと思いました。
シャミ:
本作に登場する歌にも同じようなメッセージが込められているように感じたのですが、歌にはどんなこだわりがありましたか?
三木監督:
僕自身、『ソラニン』『くちびるに歌を』とか音楽映画を作っていますが、音楽映画を観ること自体がすごく好きなんです。何で好きかというと、歌とか曲に物語が乗っかった瞬間にすごく感動してしまうんですよね。そのときに特に大事なのは、ちゃんと本人が歌っていたり演奏していることだと思っています。だから今回中学生キャストには、一人一人がちゃんと歌えるようになって欲しいと思いました。観ている方々も、彼らが自分の気持ちを吐露するように一生懸命に歌っていると見えた瞬間にグッとくるものがあると思ったので、合唱練習は本当に頑張ってもらいました。
シャミ:
舞台挨拶のときに生徒たちが歌っているのを聴かせて頂いたのですが、映画を観た直後だったので余計に感動してしまいました。中学生キャストは、オーディションをしたそうですが、その頃からずっと側で彼らの成長する様子を見ていていかがでしたか?
三木監督:
本当に自分の娘や息子を見るような感覚で、全然歌えていなかった頃も知っているので(笑)、よりグッとくるものはありましたね。でもその感じはきっと映画を観る方々にも伝わると思います。彼らが一生懸命に練習をしたからこそ、そこに辿り着いたことが伝わる歌声になったと感じています。
シャミ:
彼らを見ていて、監督ご自身の中学時代と重なるところはありましたか?
三木監督:
はい。やっぱりそこは今回かなり大きかったと思います。恋愛映画は過去の体験を描くというより「こういう恋愛がしたかったな」とか、「こうだったら良いな」っていう妄想を具現化する部分が多いんですけど、この映画に関しては当時、自分も本当にこういうことを思っていたとか、女子と男子がケンカをするシーンでも「こういう感覚ってあったな」とか、やっぱり実体験を思い出しながら作った部分がたくさんあります。
シャミ:
この映画を観ていて、中学生ならではの歯痒さがすごく懐かしくなりました。監督も当時そういう歯痒い経験があって、それがこの映画にも表現されているのかなって思いました。
三木監督:
そういうところもかなり映画に出ています(笑)。特に中学生の時期って自分の気持ちに無自覚で、そのときには理解できないけれど、後々になって気づくことがたくさんありますよね。これは原作にもあった部分ですが、当時はそんなに周りが見えていないし、大人の気持ちもわからないし、あとは「この子のことが好きかも」みたいな、自分の気持ちすらわからないんですよね。でも大人になって振り返ると、「そういえばあのときは、あの子のことを意識していたんだな」ってわかる。だからこの映画に登場する幼馴染みの2人の関係性とかも、観ていてすごくわかるなって思います。
シャミ:
そういう意味では、今リアルに中学生を過ごしている人たちが観るのと、大人になってから観るのとでは、見え方が変わるのかなって思うのですが、監督としては、各世代にどんな風にこの映画を観て欲しいですか?
三木監督:
今回は特に、柏木先生っていう大人視点と15歳の子ども視点とで、相互にリンクする形で作っているので、どっちの目線からでも観て頂けると思います。映画ってやっぱり出会い方が大事だと思っていて、その映画と出会う年齢や、そのときの精神状態で、同じ映画でも見え方が全く変わるんですよね。だから、今中学生の子たちにも観てもらいたいし、大人が15歳の頃の自分を思い出しながら、当時悩みとどう向き合っていたか、15歳をどう過ごしてきたかとか、この映画が自分と向き合うための一つのきっかけになったらすごく嬉しいです。あとはすでに劇場で観た方もちょっと時間をおいて、自分の状況がまた少し変わったところでもう一度観ると、また感じ方が違うんじゃないかと思います。
2015年6月22日取材&TEXT by Shamy
2015年9月2日ブルーレイ&DVDリリース
監督:三木孝浩
出演:新垣結衣
木村文乃 桐谷健太
恒松祐里 下田翔大 葵わかな 柴田杏花 山口まゆ 佐野勇斗 室井響
渡辺大知 眞島秀和 石田ひかり(特別出演)
木村多江 小木茂光 角替和枝 井川比佐志
発売元:アスミック・エース/小学館
販売元:ポニーキャニオン
舞台は長崎県五島列島の中学校。ある日、天才ピアニストだったと噂される柏木ユリが臨時教員としてやってくるが彼女はなぜかピアノを弾かない。合唱部の顧問となった柏木は、コンクール出場を目指す部員に“15年後の自分”に宛てた手紙を書く課題を出す。15歳の生徒が抱える悩みが綴られた手紙に、柏木は次第に心を動かされ…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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© 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 ©2011 中田永一/小学館