今回は、長年アメリカが抱える社会問題を描いた『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』ラミン・バーラニ監督に電話インタビューをさせて頂きました。『アメイジング・スパイダーマン』でお馴染みのアンドリュー・ガーフィールドが、家を奪われるシングル・ファザーを演じ、マイケル・シャノンが強制退去の裏で稼ぐ不動産業者を演じていますが、どちらが善悪というのではなく、生きるために余儀なく望まない手段を選ばざるをえないアメリカの状況をリアルに描いた秀作です。メインキャスト以外は、この物語にあるような経験をされたアマチュアの方を多く起用している点でリアルさが増していますが、監督はどんなスタンスで制作に臨んだのでしょうか。
PROFILE
1975年3月20日生まれ。アメリカのノース・カロライナ州出身で、両親はイランからの移民。“Strangers”(2000)で初めて長編映画の監督、脚本を務めた後、独自の視点で移民の現実を描いた【アメリカン・ドリーム三部作】として、“Man Push Cart”(2005)、『チョップショップ 〜クイーンズの少年』(2006)、『グッバイ ソロ』(2008)を監督した。2012年、デニス・クエイド、ザック・エフロン出演、農業経営の多角化を背景に家族崩壊の危機を描いた『チェイス・ザ・ドリーム』(2012)がヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品され、世界各国で高評価を得た。
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マイソン:
本作では、家を奪われる立場の視点、奪う側の視点と大きく分けて2つの正反対の視点で描かれている点で、気を付けたことはありますか?
ラミン・バーラニ監督:
気を付けたのは脚本を書いているときに、どちらかのキャラクターの味方はしないということでした。唯一、今回の物語の敵というか悪はシステムであり、それが腐敗しているということはありましたが、デニス・ナッシュとリック・カーバーという2人のキャラクターについては、どちらかに肩入れすることはなく、それぞれがそれぞれの声をきちっと発して、そのバトルがどんな結末を迎えるのか、試みた作品です。具体的に言うと、アンドリュー・ガーフィールドが演じるデニスや、ローラ・ダーンが演じる母親にとって家というのは安全な場所であり、自分たちのアイデンティティであり、記憶が詰まっているところであり、共同体の場でもある。逆にマイケル・シャノンが演じたリック・カーバーにとっては、家は一つの箱、売り買いできるものであり、金儲けのタネです。これも一理あると思うんですよね。デニスはずっと誠実に努力して生きてきたキャラクターだけれども、逆にリック自身も“今の時代、誠実に生きる努力をするというのは、こういうことなんだ”と表現しているキャラクターです。だってある意味、本当のことだから。我々の住むこの2015年(このインタビュー取材当時)もそうですが、自分も腐敗することで、よりサバイバルのチャンスは大きくなる、そういう世の中なので、リック・カーバーの視点もありだと思うんですよね。この2つの視点を、素晴らしい役者が演じることで、バトルをさせている映画だと思います。
マイソン:
マイケル・シャノンが演じた不動産屋のリックも完全に悪とは言えない部分も感じたし、アンドリュー・ガーフィールドが演じたデニスがずる賢い生き方に転向する様子もどこかで応援してしまう気持ちになりました。本作に協力してくださった方も含め、実際に体験した方々が映画を観た感想はどうだったのでしょうか?
ラミン・バーラニ監督:
あなたの視点がすごく鋭くて、マイケルが演じたリックというキャラクターがただ完全な悪ではないと言って頂いて、とても嬉しいです。この作品自体がわざと全てを曖昧にしている、つまり、どっちが善悪なのかをはっきりさせようとしていないのは、現状がそうだからなんですよね。 今回、映画をいろんな方に見せたなかで、とにかくポジティブな反応ばかりでしたが、退去をさせられた家主の方々は本当にポジティブな反応を見せてくれました。皆さん口を揃えておっしゃるのは、「この映画を作ってくれてありがとう。だって、自分達の話を誰も信じてくれなかったから。2分で退去させられたとか、詐欺に巻き込まれたとか言っても、“あっそう”という感じで終わっていたのが、やっと本当だったんだ、こういうことがあるんだということを知ってもらえたよ」という反応でした。それに、リック・カーバーという役は、実際の不動産屋の方を主にモデルとしていますが、その方も「僕のマインド全てをスクリーンに描いてくれたね」と言ってくれました。他の不動産業者の方も、「本当にあの時はこうだった。僕らもこの恐ろしい状況を経験した」とおっしゃるんですね。と言うのは、皆、強制退去なんてさせたくない。でも、例えばリックは自分がそういうことをしなければ、自分の家族が退去させられてホテル生活をするはめになりかねないわけですから。もちろん途中からかなりディープに法を犯すことになり、詐欺に関してははっきり悪だという結論はついていますが、他の面については監督だからって、それは良いとか悪いとか決めつけることはできないですしね。
マイソン:
映画のなかではほとんどの方が家を奪われて終わりか、ずるい生き方をするか、2択しかないのかなという風に見えました。現状アメリカでは、こういう問題を解決する状況は見えているんですか?
ラミン・バーラニ監督:
特に解決への道は見つかっていないと思います。例えば今、大統領選が進行していて、予備選でバーニー・サンダースはこの問題を解決したいと政策の一つとして挙げているんですが、彼が当選する確率は非常に低いと思われます。ビル・クリントンの時代も、良くない政策を打ち出していました。共和党に関しては、これまでぐつぐつと燃えたぎっていたマグマが今爆発しているという状況、ドナルド・トランプ(不動産王として有名な資産家で今回大統領選に立候補)という形でね。彼は勝者と敗者をしょっちゅう言及する。それはこの映画のなかでも触れている部分だし、この映画のリック・カーバーというキャラクターがトランプと言っても良いでしょう。そして、アメリカで公開されたときには、「マイケル・シャノンが演じているカーバーは、トランプ的だね」と、多くの方が言っていました。もし、子どもたちが遊ぶ砂場で旗を立てて、一番上が勝者、一番下が敗者というそれだけのものを見せて育ててしまったら、それは社会として機能しなくなりますよね。そのあいだにあるものを全て無視している、そういう状況にあると思っています。
マイソン:
社会問題を写し出す作品は、風刺的な要素、問題提起、エンタメ性のバランスをとるのが難しそうですが、今回工夫した点はどういったところですか?こういった題材をエンタメの題材に扱うことのメリットはどういう点にあると思いますか?
ラミン・バーラニ監督:
この作品を含め、どの作品もどんな風に育つのか、オープンな気持ちで臨むようにしています。最初フロリダにリサーチしに行ったときもこの作品がどんなものになるか全く自分では予測できていませんでした。最初は差し押さえのドラマになるのかなと思っていたのが、全てがすごいスピードで展開するのに加えて、自分がリサーチをするなかで、こんなに腐敗してるんだ、こんなに詐欺が横行してるんだと知ったことによって、スリラーという形態を自然にとっていきました。なんだか不動産ものというより、ギャングものみたいになっていきましたが、それは皆が銃を携帯していたり、扉の反対側に脅威があるかも知れないという現実もあったからです。でも良かったのは、より多くの方に作品が届く結果となったこと。通常そういうものを観ない方も、たぶんジャンル映画という要素、スリラーという要素が観やすくて、観てみようと思ってくださったのだと思います。
2015年12月22日取材&TEXT by Myson
2016年1月30日より全国順次公開
監督:ラミン・バーラニ
脚本:ラミン・バーラニ、アミール・ナデリ
出演:アンドリュー・ガーフィールド/マイケル・シャノン/ローラ・ダーン
配給:アルバトロス・フィルム
定職がないシングルファザーのデニス・ナッシュの家に、強制退去のため、不動産屋のリック・カーバーが保安官と共に突然やってきた。何かの間違いだと言い返すも、2分で出て行かないと逮捕すると脅され、無理矢理家を追い出されたナッシュ一家は、モーテルで仮住まいをすることに。いつか家を取り戻そうと必死なデニスは、ひょんなことから自分の家を奪ったリックと再会し、彼のもとで働くことに。そして、家族の生活を守るため、家を取り戻すため、デニスは徐々にリックのやり方に染まっていく…。
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