映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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マイソン:
本作のホームページを見て、4歳のお嬢さんも一緒に家族で映画作りに携わっていらっしゃる感じがすごく良いなと思うんですが、家族みんなでやろうみたいなところは始めからあったんですか?
牛山朋子プロデューサー:
2010年に公開した前作の映画「うまれる」は、監督の豪田(牛山プロデューサーの夫)が、もともと両親と上手くいっていなくて、いつか解決したい、家族として成り立たせたいという思いがある中、「うまれる」という原点を見ることで、自分自身と親の関係を見直し、「家族」とは何か、を探すところから始まりました。彼は「親は選べない」「好きで生まれてきたんじゃない」と思っていた時期もあって、35歳くらいまでいわゆる反抗青年でした(笑)。それが『うまれる』の製作を通じて、100組以上の方たちの取材を行い、10組の出産に立ち会わせていただくなかで、みな誰しも、祝福されて生まれてくることを目の当たりにしました。自分は愛情をかけられてこなかったと思っていたけれど、やっぱり親は祝福のなかで子どもを産み、一生懸命子どもを育ててくれていたんじゃないか…、というところにたどり着いたんです。映画の撮影が終わる頃、親に「生んでくれてありがとう」と初めて言っていました。今は彼自身の家族の関係は改善して、理解し合っています。
そんななか、親との関係が悪かったこともあり、もともと彼は家族を持ちたいなんて思ってもいなかったんですが、親と和解すると家族を持ちたくなるみたいですね。私と、子どもを産もうって約束したんです。まだ当時は、「結婚」には躊躇があったようで、“婚約”ではなく“産約”って言っていたんですけど(笑)。そういう過程を経て、無事に撮影が終わり、ちょうど公開(1作目『うまれる』)のタイミングで娘が生まれてきてくれました。
だから、そもそも、家族で映画をつくろう、ではなく、映画を作っていく過程で、自分たちも家族を作っていったという方が正しいかも知れません。うちの娘はまだ4歳になったばかりなのに「トラちゃん(本シリーズ2作通して登場する虎大君)の映画を作っているんだ」と言ってみたり、主題歌を熱唱しています(笑)。
マイソン:
ハハハハハ!なるほど〜。1作目のタイトルを見たときに、“産む”ことにフォーカスした映画だと勝手に思っていたんですが、観てみると死産を経験する方や、不妊治療の末に結局諦めた方も描かれていて、すごく多面的に作られていると感じました。「赤ちゃんを産むって良いよね」というスタンスの話だったとしたら、女性の反応が2つに分かれてしまうというか、嫌悪感じゃないですがプレッシャーを感じる人もいるのかなって。でもちゃんといろんな立場の人もケアしているのがすごく良かったです。かなりデリケートな取材になることもあったと思いますが、取材する上で、気をつけた点はありますか?
牛山朋子プロデューサー:
まず、“うまれる”という言葉の定義はすごく広く捉えています。もちろん赤ちゃんが産まれるという意味もあるし、自分が生まれてきたこと自体も含まれるし、映画に出てくる方のように、長い不妊治療を経て、赤ちゃんのいない人生を歩みましょうという人たちも、仕事を通して社会に何かを生み出していたり、“うまれる”には、いろいろな意味が含まれていると思っています。 今作の『うまれる ずっと、いっしょ。』にもまた“うまれる”が入っているのは、“赤ちゃんが産まれる”意もありますが、“家族がうまれる”ということ、奥さんを亡くされる方については、失うことによって遺された夫と亡くなった妻との新たな絆や遺された娘さんたちとの親子関係、孫たちなどまた家族の繋がりが“うまれる”という意味が込められています。
マイソン:
ドキュメンタリーという側面と多くの人に見せなきゃいけないエンターテイメントの側面とが二つあるとき、共感できるかできないかというさじ加減が難しいのではと思いました。特にお父さんの最初の姿は女性から見ると…。
牛山朋子プロデューサー:
そうそう、登場する新米パパの安田慶祐さんは、不妊治療のことも、妊娠する、ということも、全然わかっていないんですよね〜(笑)。
マイソン:
ハハハハ、男の人ってやっぱり最初はこういう感じなんだって思っちゃいました。
牛山朋子プロデューサー:
そう、女性から見たら、「もう〜、このくらいは分かってよ」と思うことすらも、ほとんどの男の人は本当によくわかっていないんですよね(笑)。でも現実的にはあんな風になる方が多いんです。
マイソン:
ある意味勉強になるし、「うちだけじゃないんだ、自分たちも頑張ろう」みたいな気持ちを引き出してくれる反面教師として観ることもできますね(笑)。
牛山朋子プロデューサー:
ママたちが観たときに、「本当、うちも全然ダメだった」みたいな声はたくさんお聞きします。でも、お父さんたちも一生懸命で、そういう姿をそのまま出したいと思いました。
今作では、最初はダメダメに見える「血の繋がりのない子どもと向き合う父親」や、「最愛の妻が亡くなったという現実に向き合う夫」「いつ亡くなるかわからない子どもと向き合う夫婦」、生と死、そして誰かとともに生きていくことに“向き合う”3組の家族が、たくさん泣いて、そして、たくさん笑って、成長していきます。
マイソン:
では最後に、このシリーズで叶えたい夢はありますか?一番伝えたいメッセージは何ですか?
牛山朋子プロデューサー:
誰に共感して観てもらえるかは人それぞれなので、それぞれの人にそれぞれのメッセージが届けば良いなと思っています。ほんのちょっとでも映画を観た人が元気になってくれれば嬉しいですし、生まれてきて良かったと言ってくれると良いなっていうのはずっと変わりません。
2014年11月5日取材
2014年11月22日よりシネスイッチ銀座他全国順次公開
監督・企画・監督・撮影:豪田トモ
ナレーション:樹木希林
配給:ミモザフィルムズ
公式サイト 映画批評/デート向き映画判定 1作目『うまれる』映画批評
大ヒットドキュメンタリー『うまれる』シリーズ第二弾。最愛の妻を病で亡くした夫、血の繋がりがない父と息子、重篤な障害を持つ子を育てる夫婦、3家族にカメラを向け、生と死、そして家族をテーマに描いたドキュメンタリー。
©2014 Indigo Films