映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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男女ともに体当たりの演技に挑み、濃厚な作品となっている『無伴奏』のプロデューサー、登山里紗さんにインタビュー。ハリウッド作品にも参加した経験のある登山さんに、プロデューサーのお仕事についてどっぷり聞いちゃいました。
ツイートマイソン:
大学時代から、映画の題材選びなど企画も考えてらっしゃったとのことですが、どんなことから始めるのですか?
登山プロデューサー:
ベストセラーは大手が既に権利を取っていることが多いので、私の場合は読みもしないんですね(笑)。それ以外で、好きな作家さんの原作を読んで、出版社に映画化権が空いているかどうかを問いあわせます。
マイソン:
次に監督を決めるとか手順が出てくると思いますが、どこから手を付けるのでしょうか?
登山プロデューサー:
基本的に誰が監督するのかを提案しないと、どんな映画になるかイメージがつかなくて出版社もオーケーできないと思うので、そこからですね。
マイソン:
権利を得る段階である程度「こういう映画になる」ということを示して交渉しないといけないんですね!今回、豪華なキャストが揃った上に、皆さん体当たりの演技を見せてくださいましたが、出演交渉する上で、難しかった点はありましたか?
登山プロデューサー:
女優さんについては制約がある場合もありますが、今回はもともとR-15+にして高校生にも観てもらいたいというのがあったんですね。で、こたつで隠れる位置で撮ったり、監督にもR-15+の範囲でできることを考えて頂きました。なので、出演交渉が特別難しいということはなかったと思います。
マイソン:
R-18+とかR15+の判断って、作ってから判断されると思っていたんですが、そうではないんですね。
登山プロデューサー:
R-18+だとテレビで一切ほぼ宣伝ができないので、宣伝にならないんです。低予算の映画ならいいですが、69年から71年を再現するなど、制作費がある程度かかって、その分回収も大変になる本作では、R18+にするという選択肢は最初からなかったです。
マイソン:
じゃあ最初からR-15でできる方法として、「原作ではこう書いてあるけど、脚本でこう変更して…」というように変えていくんですか?
登山プロデューサー:
本作に関しては、脚本でも”愛し合っている2人”としか書かれておらず、現場で「本日の体位は…」なんて言って爆笑しながら撮っていました。原作を既に読んでいる人が観て、「性描写が弱くなっている」と思う人はいないと思います。逆に、「オブラートに包んで端折っているものとばかり思っていた」と4人の体当たり演技にびっくりされています。
マイソン:
そうなんですね(笑)。プロファクション・ノートを拝見して、現場の空気はプロ意識が高く、とても良かったのだろうというのが伝わってきました。プロデューサーとしてチームワークを維持する上での工夫はありますか?
登山プロデューサー:
プロデューサーって、現場には全然来なくてVIPが来るときだけ顔を出すという方もいるんですが、私はアシスタントプロデューサーを雇わずに、自分で役者さんが入る30分前には着いてお出迎えして、役者さんとの窓口として毎日現場に行ってました。昼と夜は、制作部と一緒に私も配膳をしたり、コミュニケーションを重要視してました。ときには役者さんと直接相談する機会もあったので、一緒に創り上げた仲間という感じです。
マイソン:
仲介的な役割をすることはあったんですか?
登山プロデューサー:
例えば、矢崎監督が池松君が演じるあるシーンの撮影前に「(渉は寝ていないという設定なので)きっと池松君は、寝ないで来るだろうな」と私に言ってきたんですね。監督はそれくらいの演技を求めてるっていうのがわかるように、池松君に「矢崎さんが寝ないで来るんじゃないかって言ってましたけど、そんなの無理ですよね(笑)」って冗談っぽく、監督の意図を伝えたりしていました。
マイソン:
役者さんのなかには、役柄を日常生活に引きずるタイプと、カットがかかった瞬間に切り替えられるタイプといらっしゃるように思いますが、俳優さんの様子はどうでしたか?
登山プロデューサー:
成海さんは生まれながらの女優さんで、例えば動物園のデートに勢津子という女が来て、響子(成海璃子)が嫉妬するシーンは、撮影する日の朝からムカムカしていたり、撮影中は役に入り込んでましたね。池松君は日本大学の藝術学部映画学科の監督コースを出られてますが、自分の役をしっかり演じつつ、「これは響子のお話だから、こうしましょう」という感じで、作品を俯瞰することもできて、カメラが回っていないところでは主演の成海さんや他の方をやる気にさせることができる方でしたね。続きを読む>>>>> 1 2:ハリウッドと日本でプロデューサーと監督のパワーバランスは?
2016年3月26日より全国公開
監督:矢崎仁司
出演:成海璃子/池松壮亮/斎藤工/遠藤新菜/藤田朋子/光石研
配給:アークエンタテインメント
日本で学生運動が盛んだった1969年(昭和44年)。仙台の進学校に通っていた女子高生の響子、レイコ、ジュリーは時代の波に乗り、制服廃止闘争を行っていた。そんななか、ある日バロック音楽が流れる喫茶店「無伴奏」へ行き、渉、祐之介、エマと出会う。響子の両親は仕事の都合で東京に引っ越すが、響子は仙台の叔母のもとに預けられ、厳しい親の監視から逃れた響子は、徐々に渉との関係を深めていくが…。
©2015「無伴奏」製作委員会