映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
TOP > 映画界で働く女TOP > 映画界で働く女性にインタビュー&取材ラインナップ > HERE
ツイート
ミン:
この作品では夏子の死をきっかけに、幸夫の情けない部分や弱い部分がどんどん露呈されていきますが、そういった他人に知られたくないデリケートな感情を真っ直ぐに描いてしまう西川監督は、普段から他人の内面にある弱さや矛盾みたいなものを敏感に感じ取ってしまうのですか?
西川美和監督:
いえいえ。他人のことはわからないです。でも、自分の感情の動きは常に感じています。「今、自分は平気な顔をしているけど、動揺しているな」とか。そういう意味で、自分の一番恥ずかしい部分や見たくなかった部分に向き合って、分析して書き連ねたのが今回の作品です。人それぞれとは言っても、もちろん似かよったところもあるから、自分の弱さや情けなさを嘘なく正直に書いていけば、多少なりとも共感を得るだろうという読みはありました。
ミン:
『永い言い訳』というタイトルには、どういった思いを込められたのでしょうか。
西川美和監督:
それが、何となくこのタイトルだなと思って(笑)。うまく言えないんですよ、ほんと。作品を撮り終えたときに自分が感じたイメージと、今もまた違ってきているし。
ミン:
そうなんですね!私自身は、始めは幸夫が夏子を大切にできなかったことに対して、単純に言い訳をしたいのかなと思いました。でも、物語が進むにつれ、幸夫が自分自身の生き方に対して何かしらの疑問を感じて、それに対して言い訳しているのかも知れないと思ったんです。“言い訳をする”という行為自体は情けないことだけど、自分が足りていないという自覚がなければそれすらしないのだろうし。そう思うと、この“言い訳”は幸夫にとって「贖罪」でもあり「これから生きて行く糧」という意味もあるのかな、と。拡大解釈かも知れませんが。
西川美和監督:
いえ、それが答えでいいと思います(笑)。今、おっしゃったように、“言い訳”って普通は悪い意味にとるでしょう?でも、私は最近、言い訳は悪い言葉じゃないって思っているんです。だって、相手がいないと言い訳する必要もないし、言い訳できるだけ幸せだとも感じるんですよね。この質問には、模範解答がないんです。このタイトルの答えは、観た人のなかにあるんだと思います。
ミン:
観る人がいろいろ考えるという意味でも、素晴らしいタイトルですね。
西川美和監督:
ありがとうございます。残された人の時間の長さも含めた、絶望的でありつつも救いのあるタイトルだと思っているので、細かい解釈は観た人にお任せしたいと思っています。
ミン:
ところで、なぜ主人公と同姓同名の有名人に、元野球選手で現野球評論家の衣笠祥雄さんを選ばれたのですか?
西川美和監督:
広島出身の私にとって、元広島カープの選手であった衣笠祥雄さんは偉人なんです。衣笠さんって選手としてすごい記録を残した方ですが、それ以上にケガとか生い立ちといった逆境をものともせずに、真っ直ぐに受け止めて、なおかつ卑屈にならずに立ち向かってきた方なんですね。そういう意味で、主人公の幸夫の器量の小ささとは対極的な人物です。主人公は重たい名前を背負っちゃった人という設定だったので、これはもう、衣笠祥雄さんしかいないと思いました。
ミン:
なるほど!衣笠選手に、そこまで深い思い入れがあったんですね。
西川美和監督:
当然ですよ(笑)!
ミン:
最後に、これから本作を観る方にメッセージをお願いします。
西川美和監督:
人生で人との別れを経験しない人はいないと思います。本作は、そんな誰の身にも起こりうる “別れ”をテーマにした作品です。いつ降りかかるかわからないことだからこそ、身近に存在してくれる人のことやその人との時間について、少し立ち止まって想うことのできる機会にしていただけたらと思います。あ、あと!この映画は、劇場用パンフレットがとてつもなく素晴らしい内容になっています!あっと驚く内容のDVDも入っていますし、とにかく、ハイクオリティですので、ぜひお買い求めいただきたいです(笑)!
ミン:
ありがとうございます!劇場用パンフレットもぜひチェックさせていただきます(笑)!
前に戻る<<<<< 1 2
2016年10月14日より全国公開
監督・原作・脚本:西川美和
出演:本木雅弘/竹原ピストル/藤田健心/白鳥玉季/堀内敬子/池松壮亮/黒木華/山田真歩/深津絵里
配給:アスミック・エース
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友と共に亡くなったと知らせを受ける。ちょうどその時間、不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻と一緒に亡くなった親友の夫であるトラック運転手の陽一とその子ども達に出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。保育園に通う末っ子の灯と、妹の世話のため中学受験を諦めようとしていた兄の真平。子どもを持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き出すのだが…。
©2016 「永い言い訳」製作委員会