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海辺の生と死

2017年7月29日より全国順次公開
フルモテルモ、スターサンズ
公式サイト

戦後文学界を代表する作家、島尾敏雄の小説「島の果て」と、その妻の島尾ミホの短編集「海辺の生と死」を原作に描く本作は、第二次世界大戦末期の奄美群島を舞台に、島に駐屯してきた海軍特攻艇隊長の朔中尉と島で生まれ育った国民学校の教師トエの出会いを鮮烈に描く作品です。奄美の荘厳な自然や、独自の言葉と文化のなかで暮らす人々の姿は、同じ日本とは思えないような独特さをもち、朔とトエは、まるで異人種同士が惹かれ合っているようにも見えました。
いつ戦争に命を投げ出すとも知れぬ朔に、抑えきれぬ恋心を抱くトエ。彼女の内に秘める強さや激しさを体現する満島ひかりの演技が見事です。そして、どこか飄々とした芸術家肌の朔を演じた永山絢斗も役にとてもハマっていました。はかない恋のきらめきと、圧倒的な神秘性と生命力をもつ自然の風景を見ていると、これらを焼き尽くす戦争の意味と愚かさを考えさせられます。これまで、映画プロデューサーとして『海炭市叙景』『ゲゲゲの女房』『かぞくのくに』『ドライブイン蒲生』『白夜夜船』など、インディーズ映画の佳作をたくさん世に送り出してきた越川道夫監督が、いつか映画化したいと温めていた作品ということで、その熱い思いをたっぷりと伺ったロングインタビューも敢行しましたので、ぜひ、お読みください！

戦争を背景に描かれるラブストーリーですが、お涙頂戴のメロドラマではありません。トエという女性の激しい愛は、ときめきといったものよりも、野生や本能に近い感じでしょうか。男性によっては若干腰が引けてしまうような愛かも知れません。しかし、それだけに不純物を一切取り除いたような、みずみずしい情感が伝わってきます。デートよりも同性同士で観にいくほうが観賞後に盛り上がりそうな作品です。
ところで、トエと朔のモデルとなった島尾敏雄、島尾ミホ夫妻といえば、夫の浮気で精神を病んでしまう妻を描いた私小説「死の棘」が有名です。この作品は1990年に小栗康平監督、松坂慶子、岸部一徳主演で映画化もされていますが、本作に繋がる物語としてご覧になってみるのも興味深いでしょう。内容が内容だけに、カップルやご夫婦で一緒に観るのはオススメできませんが…。

島の素朴な子ども達の姿がとてもかわいらしく、子どもって本当に世の中の宝だな～と思って観ていました。キッズやローティーンには、文学的で少し難しい作品だと思いますが、手付かずの自然のなか、のびのびと育つ子ども達の姿と、彼らのすぐ側にまで忍び寄る戦争の影の対比は、平和の尊さを改めて感じさせます。高校生以上でしたら興味深く鑑賞できる作品だと思いますし、親子で観るのも良いと思います。また、本作をきっかけに島尾敏雄、島尾ミホの文学に触れてみるのも一興です。

2017.7.26　TEXT by min