宮沢りえが第36回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞するなど、2014年に数々の賞を受賞した『紙の月』。今回は、そんな本作の吉田大八監督にインタビューさせて頂きました。「男をしっかりと描ければ、女性もより強く綺麗に輝く」とおっしゃっていた監督に原作小説についてや、女性の怖さについて直撃しました!
PROFILE
1963年生まれ、鹿児島県出身。早稲田大学第一文学部を卒業。CM制作会社でディレクターとして活躍した後に2007年『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で映画監督デビュー。本作はカンヌ国際映画祭批評家週間正式招待を受けた。その後『クヒオ大佐』『パーマネント野ばら』を監督し、2012年の『桐島、部活やめるってよ』では、第36回日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ、数々の賞を受賞。2014年には宮沢りえ主演の映画『紙の月』を監督。
2015年5月20日ブルーレイ&DVDリリース
2015年6月2日よりレンタル開始
監督:吉田大八
原作:角田光代(ハルキ文庫刊)
脚本:早船歌江子
出演:宮沢りえ 池松壮亮 大島優子 田辺誠一 近藤芳正 石橋蓮司 小林聡美
ポニーキャニオン
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1994年、梅澤梨花は、子どもには恵まれなかったものの夫と穏やかな日々を送り、契約社員として働くわかば銀行でも、上司から高い評価を得ていた。しかし一見、何不自由のない生活を送っている梨花だが、自分への関心が薄く、鈍感な夫との間には空虚感が漂い始めていた。そんななか、仕事中に大学生の光太と出会い、次第に2人は頻繁に会うようになり…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定 完成報告会見取材リポート
現実逃避したくなる女の心理 調査結果
© 2014「紙の月」製作委員会
シャミ:
本作は、角田光代さんの原作を映画化した作品ですが、原作のイメージを気にされたり、映画オリジナルで描きたかった点など、監督ご自身が意識されたところはありますか?
吉田大八監督:
小説は小説として完成された形があるので、逆にあまり原作の形自体には縛られなくてもいいと思っています。原作を読んだ上で映画を観にくるお客さんもいますし、原作に対する礼儀として、映画化するからには映画としてベストな形を探る責任があると思って脚色を進めました。ただ自分が原作を読んだ直後に感じた読後感にはとことん忠実に作ろう、と。特に今回は、主人公の梨花(宮沢りえ)が走るイメージがなぜか心に残っていたんですよね。だから彼女が走るというゴールに向けて、物語として何を紡いでいくのか考えました。
シャミ:
梨花と隅(小林聡美)の静かなバトルも印象的だったのですが、監督が彼女たちに共感したところはありますか?
吉田大八監督:
共感というよりも、彼女たちに僕の思いを託した感じですね。この映画を観た女性のなかには、「梨花の気持ちがよくわかる!」という人と、「優しい旦那さんがいるのに、あんなことをする梨花が許せない」という人がいたんです。それってちょうど映画のなかの梨花と隅の関係みたいに、裏表ですよね。僕としては、女性のやり取りを結局は横で見ているしかない歯痒さっていうのがあるんです。だから今回は開き直って、梨花と隅の1対1の対決に全て委ねました。そこから先は男の僕には手が届かないから、後は頼んだ!というか、絶対にどちらかが「その先へ」辿り着いてくれという、祈りを込めて。そんな彼女たちに、憧れに近い気持ちを抱きながら撮影しましたね。
シャミ:
男性としてあの2人を観たときに女性って怖いなとか思いますか?ああいう人たちがもし身近にいたら監督はどうですか?
吉田大八監督:
あの人たちが怖いというか、基本的に女性はみんな想像を超えてくるので怖いです(笑)。でもやっぱり自分の手の届く範囲で作っていてもワクワクしないし、そういう映画を観てもおもしろくないんですよね。女性が主人公の映画ですし、せっかくなら自分が女性にどれくらい預けられるかっていうことだと思ったんです。僕には行けないところまで行ってもらって、僕の見られない風景を見てもらって、でもせめてその風景を見ているときの顔だけはこっちに見せてほしい、という気持ちでした。
シャミ:
この映画のキャラクターは、みんな悪気はないんでしょうけど見方によっては全員が悪者にも見えました。監督はそれぞれのキャラクターにどのくらい悪意を込めようと思ったのでしょうか?
吉田大八監督:
本当にそうなんですよね。はっきりした意図、というよりは偶然とかタイミング。改札で梨花と光太(池松壮亮)がすれ違ったシーンにしてもそういうことですよね。
シャミ:
梨花と相川(大島優子)とのロッカールームのシーンで、相川が「やりたいことはやっちゃえば良い」と言う台詞もあったのですが、あれも特別悪いことを言おうとしていたわけではありませんよね。
吉田大八監督:
そうですね。大島さんには具体的に、相川は無邪気な悪魔だ、という話はしました。相川は「やりたいことはやっちゃえば良い」って、全然悪いこととして言っていないし、むしろ正直に言っているわけじゃないですか。でもそのことが全く違う意味で、梨花の心にある働きかけをするっていうことを、相川も本当は心のどこかで知っていると思うんですよ。自分がこの人の何かに火を付けているっている自覚を、悪意になる一歩手前で寸止めするセンスがある人、というイメージ。その微妙なバランスを、大島さんが自分の経験も生かしながらすごく上手く表現してくれました。
シャミ:
梨花を演じた宮沢りえさんは、本作で日本アカデミー賞の主演女優賞を受賞されたり数々の賞を受賞していましたが、梨花を演じてもらうにあたって監督ご自身が指示されたところや、一緒に話し合ったところはありますか?
吉田大八監督:
そんなに具体的にこうしようっていう話はしなかったんですよね。撮影が始まってすぐ、くどくどした話し合いがいらない信頼関係ができたような気がします。それを共有できたことで、宮沢さんとはこの映画のための「同志」になれました。できるだけ目標は遠く高くにある方が良いということをお互いに確認した上で、どこまでいけるのか限界を探り合って、地道に一歩一歩前に進めていけた感じでした。
シャミ:
では、監督ご自身が梨花を通して一番伝えたかったことは何ですか?
吉田大八監督:
僕がこの映画の作業でよく使ったキーワードが、“爽やかな破滅”でした。それまでに持っていたものを全部手放しても、生き続けるという意志を再確認できる破滅のことなんです。そうすることで、究極にすっきりするという過激なデトックスみたいな(笑)。結局過激すぎて、法を犯してしまうんだけど、梨花のような人がどこまで行けるのか、最後にどういう顔をするのか、を見たかったんですよね。だから梨花を通じて何かを伝えたかったというよりも、梨花を描くことで最後に梨花がどういう顔をするのかを自分自身が見たかったし、その顔はきっとみんなも見たいはずだと。
シャミ:
では最後にトーキョー女子映画部のユーザーに向けて、本作のオススメコメントをお願いします。
吉田大八監督:
この映画を観て、すごくわかるっていう人とすごくムカつくっていう人の両方いると思うんですよ。でもどちらの立場の人にも納得してもらえるクライマックスを用意したつもりです。ぜひ観て頂いて、過激なデトックスを体験して頂ければと思います(笑)。
ほかにも本作にちなんで、「監督ご自身が現実逃避したいことはありますか?」と伺ったところ「毎日あります(笑)。でも男は逃げている最中に死んでしまう気がします」とお話しされており、やはり男性である自分にはできないところを映画のなかで女性に託しているとのことでした。監督が本作の女性キャラクターにどんなことを託したのかはぜひ映画でご確認ください!
2015年3月30日取材&TEXT by Shamy