西炯子の人気コミックを榮倉奈々&豊川悦司主演で映画化した『娚の一生』。今回はそのメガホンをとった廣木隆一監督にインタビューさせて頂きました。ご自身も少女マンガが大好きで「男の僕にはわからない女性のホンネが描いてあるところがおもしろい」と語っていた監督に、撮影時のキャストとのやり取りや女子の不毛な恋愛について直撃しました!
PROFILE
1954年生まれ。1982年『性虐!女を暴く』で監督デビュー。1993年の『魔王窟・サディスティックシティ』で、ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭ビデオ部門グランプリを受賞。1994年、サンダンス・インスティテュートにおいて奨学金を得て渡米。帰国後に発表した青春映画『800 TWO LAP RUNNERS』で文化庁優秀映画賞、高崎映画祭若手監督グランプリ、日本映画批評家大賞最優秀監督賞を受賞。2003年、『ヴァイブレータ』で第25回ヨコハマ映画祭において、監督賞をはじめ5部門を受賞し、マンハイム国際映画祭、香港国際映画祭などで数々の賞を受賞。2011年には、『軽蔑』で第26回高崎映画祭最優秀監督賞を受賞。その他に『機関車先生』『きみの友だち』『余命1ヶ月の花嫁』『雷桜』『きいろいゾウ』『だいじょうぶ3組』『100回泣くこと』『さよなら歌舞伎町』『ストロボ・エッジ』などを監督。 西炯子の人気コミックを映画化した『娚の一生』では、榮倉奈々と豊川悦司を主演に迎え、大人の男女のラブストーリーを描いた。
シャミ:
私は原作を読んでいたのですが、映画にも原作と同じような空気感やイメージが引き継がれているなと感じました。監督が原作のイメージで保ちたかったところや、映画だからこそ変えたいと思ったところはありますか?
廣木監督:
コミックの原作でならではって思うのは、表情が急に変わるところで、真面目な場面だったのに急にコメディちっくになったりしますよね。そういうところを映画で表現するのは、すごく難しいことなんです。だからつぐみと海江田の会話の“間”の取り方で、笑えたら良いなって考えていました。さすがにコミックのような急な変化を映画で表現することを目指そうとは思いませんでしたけど、2人の関係性の空気感はちゃんと描きたいなって思っていました。
シャミ:
なるほど〜。海江田のちょっとした一言は、結構笑えるなって思いました。
廣木監督:
海江田ってわりと辛辣なことを言うじゃないですか。そういうところで笑ってもらえたら一番良いなって思っていました。現場でも豊川さんが芝居するたびに笑っていました(笑)。
シャミ:
カッコ良い豊川さんが、サラっと辛辣なことを言うからこそ余計に笑えたような気がします。
廣木監督:
そうそう、本当に豊川さんだからこそ笑えるし、許せるっていう部分はありますよね(笑)。豊川さん自身、キャラクターづくりをちゃんとやってくれて、現場に毎日原作本を持ってきていたんですよ。それを1コマずつよく見て、メガネを上げる仕草とか、タバコを吸う仕草とか、かなり細かいところまで似せて演じてくれました。
シャミ:
スゴいですね!マンガだと静止している海江田が本当に動いたのがすごく嬉しかったです。榮倉さんも今回はいつもの元気なイメージとは違う、いろいろなことを抱えた大人の女性を演じていましたが、監督としてはどんな風に見せたかったのでしょうか?
廣木監督:
今回の話は、榮倉さんでまた何かやりたいなっていうところから始まっていて、彼女は撮影当時26歳でしたけど、ほかの作品とは違う榮倉さんを見せられたら良いなって思っていました。
シャミ:
この作品は、告白して付き合うとか、プロポーズして結婚するとか、言葉で恋愛を進めていくというより、大人の2人だからこそできる穏やかな恋愛模様が描かれていましたが、この2人の恋愛をどんな風に描きたいと思っていたのでしょうか?
廣木監督:
僕自身、最近ハッピーエンドのラブストーリーを撮っていないような気がしていて、今回はハッピーエンドのものが撮りたいと思いました。つぐみと海江田は、出会ってすぐに暮らし始めますよね。観ていて最初からこれからこの2人が付き合うことは予想できると思うのですが、その空間で2人の恋愛がどんどん育っていく様子を見せたいなって考えていて、あとは2人が恋愛のなかで何を見つけていくのかっていうところを描きたいと思っていました。
シャミ:
足キスのシーンはコミックのなかだと、1ページだけのシーンだったのですが、今回映像化されたことで、よりあのシーンの重要性を感じたのですが、このシーンで監督がこだわった点はありますか?
廣木監督:
コミックの場合だと、絵で総称することができるじゃないですか。でも映画って1シーン見せられると、次に何が起こるのかどんどん期待するんですよね。だからあのシーンに関しては、ある程度長さが必要な気がしました。普通にベッドシーンを描くよりもすごくエロチックだし、2人らしさが見える場面でもあります。中年の海江田が何も言わずにつぐみの足を舐めている、その方が不器用に見えて良いなって思いました。
シャミ:
すごく大人なムードを感じるシーンでしたが、お二人には何か指示されたりしたのでしょうか?
廣木監督:
一応リハーサルのようなものを何回かやって、自然に見えるようにとは言いました。観ている人たちに、次に何かあるって悟られないようにしたかったので、そこは考えました。
シャミ:
つぐみは、海江田と出会う前に別の人と不倫関係にありましたが、そういった不毛な恋愛をしてしまう世の女子について、監督はどう思いますか?
廣木監督:
誰かを好きになることは止められないし、そのままとことんその人と恋愛して、パッとやめられたら良いのですが、そんなに簡単なことではないですよね(笑)。やっぱり人生は短いし、僕としては不毛な恋愛しない方が良いと思います。特に女性の場合はいろいろな適齢期もありますしね。
シャミ:
最近の若者が全く恋愛をしないっていう話も聞くのですが、全く恋愛しないのと、不毛な恋愛でもした方が良いのか、どっちが良いと思いますか?
廣木監督:
全く恋愛しないよりは、不毛な恋愛でもした方がましだと思いますよ。たぶん不毛な恋愛をしちゃう人って、最初から不毛だと思っていないからそういう経験をしてしまうんでしょうね。それで恋愛して、不毛だってわかったときに後悔するんですよ。
シャミ:
そう考えると、つぐみみたいに次にちゃんと良い人と出会えることってスゴいことですし、ラッキーですよね。
廣木監督:
これって本当にたまたまなんだろうけど、スゴいことですよね(笑)。でもみんなが気づいていないだけで、実はそういう運命的な出会いってあるらしいですよ。
シャミ:
そうなんですか!?そういう人がちゃんといるなら信じて待ちたいですよね!では、恋愛映画を描くことの一番のおもしろさはどんなところだと思いますか?
廣木監督:
男と女もそうですけど、やっぱり人間関係が一番おもしろいなって思います。それぞれの人物にお父さんやお母さんがいて、育ってきた家族があるわけです。そして新たな家族を作っていく。だから「結婚しよう」「うん」だけじゃない恋愛を描くのはおもしろくて、恋愛の形がどんどん変わっていくのが良いんですよね。だってその形の変化によっては、人を殺したりすることもありますよね。その人間模様を描くことがおもしろいなって感じます。
シャミ:
では、最後にトーキョー女子映画部のユーザーに向けて本作のオススメコメントをお願いします。
廣木監督:
この映画には、すごくスッキリした人間関係が描かれていると思います。2人が出会って一緒の生活が始まって、それで結婚という形になっていくということがすごくシンプルに見えるので、そういうところはじっくり観て欲しいです。恋愛映画って、あの人がこっちを好きで、こっちはあっちの人を好きでとか、ややこしいものも多いと思うのですが、この映画は男と女のシンプルな恋愛が描かれているので素直に観られるんじゃないかなって思います。
2015年6月23日取材&TEXT by Shamy
2015年7月15日ブルーレイ&DVDリリース
監督:廣木隆一
出演:榮倉奈々 豊川悦司 / 安藤サクラ 前野朋哉 落合モトキ 根岸季衣 濱田マリ 徳井優 木野花 / 向井理
発売元:ポニーキャニオン/小学館
販売元:ポニーキャニオン
堂薗つぐみは、キャリアを捨て仕事を辞めて、辛い恋愛をしていた都会から逃れ、祖母が暮らす田舎の一軒家に住むことに。だが、予期せず祖母が亡くなり、いつの間にかはなれに引っ越してきた52歳独身の大学教授、海江田醇と出会う。彼は生前祖母から鍵を預かっていたと言い、つぐみは渋々海江田と奇妙な同居生活を始める。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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©2015 西炯子・小学館/「娚の一生」製作委員会