原作を読んで、海江田という人物は具体的に生身の身体と生の言葉で演じるのが難しそうだと思いながらも、こんなに魅力的なキャラクターはなかなかないと、今回の作品に飛び込んだという豊川悦司さん。海江田は愛おしいキャラクターで、チャンスがあったらもう一回演じても良いなと思うくらい、一緒にいる時間が楽しかったそうです。そんな豊川さんに本作にちなんで恋愛観を聞いてみましたが、恋愛哲学とも言える、すごく深いコメントを頂くことができました!
PROFILE
1962年3月18日生まれ、大阪府出身。1990年、北野武監督の『“3-4×10月』で沖縄のヤクザ組長役で注目され、1991年、中原俊監督作『12人の優しい日本人』で本格的に映画デビュー。翌年の1992年には『きらきらひかる』『課長島耕作』と続けて映画に出演し、1993年、第14回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第16回日本アカデミー賞新人賞、第18回おおさか映画祭助演男優賞を受賞。その後は、多くのTVドラマ、映画に出演し、常に第一線で活躍し続けている。これまでの映画出演作は、『Love Letters』『八つ墓村』『命』『丹下左膳 百万両の壺』『北の零年』『ハサミ男』『大停電の夜に』『やわらかい生活』『日本沈没』『LOFT』『フラガール』『愛の流刑地』『サウスバウンド』『20世紀少年』シリーズ3部作、『今度は愛妻家』『一枚のハガキ』『プラチナデータ』『春を背負って』など多数。
2月14日より全国公開
監督:廣木隆一
出演:榮倉奈々 豊川悦司 / 安藤サクラ 前野朋哉 落合モトキ 根岸季衣 濱田マリ 徳井優 木野花 / 向井理
配給:ショウゲート
堂薗つぐみは、キャリアを捨て仕事を辞めて、辛い恋愛をしていた都会から逃れ、祖母が暮らす田舎の一軒家に住むことに。だが、予期せず祖母が亡くなり、いつの間にかはなれに引っ越してきた52歳独身の大学教授、海江田醇と出会う。彼は生前祖母から鍵を預かっていたと言い、つぐみは渋々海江田と奇妙な同居生活を始める。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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マイソン:
特に前半、海江田のセリフに、本人は真面目に言っているのかもしれないけれど、シチュエーション的に笑えるものがたくさんありました。セリフを活字から音に変えて発する上で、ご自身なりに加えてみた要素はありますか?
豊川悦司さん:
たぶん、(原作者の)西先生が海江田に関西弁をしゃべらせているのは、意図的だろうというのがあって、これが標準語のような言葉だと全く違うように聞こえちゃうと思うんです。でも関西のああいう独特な、聞くだけでちょっとコミカルな匂いがある言葉は、重たくならないっていうか、それはすごく自分のなかで大事にしました。海江田が52歳ということも踏まえて、戦前のラジオの貴重な音源みたいな、昔の上方漫才のミヤコ蝶々さん、南都雄二さん、中田ダイマルラケットさんとかのCDを通販で探して、1人でいるときにずっと聴いてましたね。リズム感っていうのかな。それがあれば、活字で見ている海江田の言葉にリアリティを足すことができるのかなと、何となくそういう考えがありました。
マイソン:
そういうユーモアのある一方で、沸々と海江田の恋心が見えてきて、前半と後半の違いをすごく感じました。今回、海江田を演じるにあたり、「つぐみを演じる榮倉さんに本気で恋してみたい」というコメントを資料で拝見しましたが、今回恋してみて、つぐみという女性の面倒くさいな、おもしろいなという部分はどういうところでしたか?
豊川悦司さん:
一般論として、女の人を面倒くさいなと思うところは、“女の人が自分では絶対面倒くさいとは思ってないところ”かな。女性にとってはすごく重要なことなんだけど、それが意外に男性にとっては面倒くさいところがあったり、でもこのストーリーで考えても、それを埋めていくのが恋愛であり、夫婦であったりするのかな。うまく言えないんだけど、男と女には距離じゃなく時差みたいなものがあるんじゃないかと。だから、男がこう思ってるときに女はまだそれを考えてなくて、女がそう思っているときには男はまだそこまでいきついてないということがあると思うんです。それを近づけていくのが共有する時間の長さみたいなことだと思うんだけど、だんだん日が経つにつれて時差ってなくなっていくじゃないですか。そういう風にお互いのリズムが合っていくのかな。
マイソン:
深い!! あと、海江田もつぐみも恋に臆病になっているという共通点が、ストーリーの終わりに近づくにつれ、だんだん見えてきました。演じていて、海江田とつぐみが一番共通していると感じた部分はどんなところですか?
豊川悦司さん:
“求めるという行為を恐れる”っていうことかな。“欲しいんだけど、欲しいって言う行為が怖い”、だから恋が怖いっていうよりは、「恋したい」と言うことが怖いっていうのが2人に共通してるのかなと思いますね。
マイソン:
海江田が「練習だと思って僕と恋愛してみなさい」というセリフもあったと思うんですが、あれは自分のことはさておきということだったのか、それか少し自分を彼女に投影している部分もあったんでしょうか?
豊川悦司さん:
海江田って、なかなかストレートに表現できないところがあって、シャイな人だと思うんですよね。自分のそういう羞恥心に感情が勝ったときに、ああいう名言が飛び出るみたいなところがあって。だから、ふわ〜っとした物言いをするときもあるし、一色(ひといろ)じゃない漫画的、映画的なキャラクターだと思います。なかなか現実的にはこういう人はいないし、だからこそ映画のなかで魅力的なキャラクターになっているんじゃないかなと思います。
マイソン:
じゃあ最後に見どころをお願いします。
豊川悦司さん:
ご飯を食べてるシーンとか、廣木監督はすごく演出しているし、ちょっとした座る位置や距離感、そのシーンの長さだったり、編集でもすごく計算していると思います。物語の舞台がほとんど動かず、一軒の古民家のなかで2人の距離が近づいていく、2人が気付かないうちに近づいているっていうのをすごく表現しているのが食事のシーンだと思うんですよ。だからそこを比較して観ていくとおもしろいんじゃないかと思います。
2015.2.9 取材&TEXT by Myson