映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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女性として辛い現実を突きつけられる反面、一歩踏み出す勇気をくれる温かい雰囲気に包まれた、映画『四十九日のレシピ』タナダユキ監督にインタビュー!今回監督には、男女間の問題や新しい家族の形という難しいところから、監督になった経緯について語って頂きました。
1975年、福岡県生まれ。高校卒業後にイメージフォーラム付属研究所にて映像制作を学ぶ。2001年初監督作品の『モル』がPFFアワードグランプリとブリリアント賞を受賞。2008年『百万円と苦虫女』では日本映画監督協会新人賞やウディネファーイースト映画祭“My Movies Audience Award”を受賞。そのほかの監督作に『タカダワタル的』(04)、『赤い文化住宅の初子』(07)、『俺たちに明日はないッス』(08)などがあり、『ふがいない僕は空を見た』(12)はトロント国際映画祭に正式出品された。蜷川実花監督作品の『さくらん』(07)では脚本を担当した。また小説家としても活動し、著書に「ロマンスドール」「百万円と苦虫女」「復讐」などがある。
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シャミ:
自分は不妊なのに、夫の浮気相手が妊娠するなど百合子には辛い状況が突きつけられましたが、監督ご自身が百合子に共感したところや、逆に自分だったらこうかなと思うところはありますか?
タナダ監督:
今まで作ってきた映画だと、自分よりも年下が主人公のものが多かったんですけど、百合子は私と同世代ということで、百合子自身の煮え切らない感じには共感というかリアリティがあると思いました。最初に脚本を読んだときは、私だったら浩之を許すことは無理かもなと思いました。でも原田泰三さんのお芝居を観て、百合子が思い詰めていたから浩之も思い詰めてしまったんだなということがちゃんとわかって、そこでようやく自分のなかで腑に落ちた部分がありました。
シャミ:
監督としては浩之は浮気をした嫌な男に見えますか?それとも男だから浮気するのも仕方がないと思いますか?
タナダ監督:
やっぱりダメなやつですよね(笑)。ちょっとずるいところもあるし、そんなに問題が大きくなるまでなんで百合子ときちんと話し合えなかったのかって思います。浩之自身の一時的な気の迷いや優柔不断さが招いた結果ですし。でも浩之だけに原因があるのかって言われると、決してそうではありません。男女間ではやっぱりどちらにも同じように問題があるんだと思います。この夫婦の場合は百合子が思い詰めたことが浩之にとっても相当辛いことだったんですよね。浩之は確かにダメなやつなんですが、ダメなやつだからこそ百合子は見捨てなかったんだと思います。浩之が格好つけたことを言わずに、土下座してでも「一緒に考えてくれ」と言って、そういう浩之が非常に人間らしいですよね。
シャミ:
確かにそうですよね。ちなみに本作では浩之が浮気をしましたが、監督ご自身は浮気ってどこからだと思いますか?
タナダ監督:
私自身、仕事柄男性と2人だけで打ち合わせをすることもあるので、2人でごはんぐらいまではアリかなと思います。でもそこで手まで繋ぐと「おやおや?打ち合わせなのに手を繋ぐのかな?」って思いますよね(笑)。あとは浩之みたいに一時的な気の迷いとかもあるのかも知れませんが、程度にも寄りますよね。浩之のようになっちゃうのはちょっと…(笑)。
シャミ:
そうですよね〜。さすがに浩之みたいだと参っちゃいますね(笑)。
シャミ:
乙美(百合子の継母)と百合子の血の繋がりがなかったり、良平と百合子のもとにハルとイモが来たりと、血縁関係がない新しい家族の形が提示されているのかなと思ったのですが、“家族”を表現する上で特に意識されたことはありましたか?
タナダ監督:
良平や百合子が前に進むきっかけが必ずしも血の繋がった家族である必要はないんじゃないかなって思いました。イモやハルも「百合子たちを救わなきゃ」っていう気負いがあって熱田家にやって来たんじゃなくて、「ただ乙美さんに言われたから来た」っていうくらいなんですね。でもそんな感じの人たちがお互いに影響し合って、気づいたら一歩進むきっかけになっていた、そういう関係性がすごく良いなと思いました。今は昔みたいに親族が一つの地域に暮らしていることがあまりないので、そういう意味で現代の人は他人と関わっていかざるを得ないのかなって思います。良い関わり合い方とか良い距離感が何かこの映画のなかでちょっと出せればなと思いました。
シャミ:
良平の住む昔ながらの田舎に現代っぽいイモとハルが入ってきたように思えたのですが、そんなイモとハルを描くにあたって気を付けた点はありますか?
タナダ監督:
百合子と良平が2人っきりでいたら、ずっと鬱々した感じになっていたでしょうね。だからそんな熱田家をかき混ぜてくれる人たちが必要で、イモにしてもハルにしてもただ明るいだけ元気なだけじゃなく、こんなに明るい裏に何があるんだろうっていうことを意識しました。演じてくれた2人もそこを踏まえながら演じてくれていたし、ただ変な子たちがやってきましたってならないようにしました。
シャミ:
イモとハルを今回二階堂ふみさんと岡田将生さんにキャスティングされた理由やきっかけはありますか?
タナダ監督:
イモもハルもすごく難しい役で、もしキャスティングを間違うとただのイタイ子に見えちゃうすごく難しい役だなって思うんですね。イモ役はやっぱり若手の女優のなかでは将来的にもすごく楽しみな二階堂さんっていう名前が最初に挙がって、ぜひお願いしますということで、ご本人も引き受けてくれました。ハル役の岡田くんに関してはキャスティング担当の方からどうですかと言われたのですが、まさかご本人が引き受けてくれると思っていませんでした。岡田将生という人が、日系ブラジル人ではなく日本人俳優であるということは誰もが知っていて、そんななかで敢えてこの役を引き受けてくれたことがすごいなと思いました。私もこの役が一番不安だったんですが、岡田くんだったから乗り切れたみたいなところはあります。
シャミ:
永作博美さんが撮影中、妊娠されていて、でも演じる役柄は不妊ということで、監督は永作さんと撮影中に何かお話し合いをされたんでしょうか?
タナダ監督:
実は妊娠していたことを全スタッフに内緒にされていて、我々は全く何も知らずに撮影していたんです。全くそういう素振りを見せず、後から知ったのですがものすごい女優さんだなと思いました。撮影中はまだ安定期ではなかったはずで、万一ってことがないとも限らないのに、誰にも言わずに撮影を乗り切るという根性の座り方になんてすごい人だろうと思いました。元気なお子さんを出産されたので本当に良かったんですけど、たぶん永作さんのなかではスタッフにいろいろと気を使わせてしまうとか、そういうことをきっと考えていたんだと思います。
シャミ:それを聞くと余計に永作さんのすごさを感じますね!
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シャミ:
ここから監督ご自身のお話を聞かせて頂きたいんですが、まず映画監督になった経緯を教えてください。
タナダ監督:
最初は演劇の舞台をやりたいと思っていたのですが、自分が直に関わるのは違うかなと思い、21歳のときにイメージフォーラムで映像の勉強を始めました。それから25歳のときに『モル』という作品を作って、それが翌年のぴあフィルムフェスティバルで賞をもらって、監督業はそこからですね。経歴だけ見ると「順調ですね」ってよく言われるんですけど、全然そんなことはなくて自分でもたくさん企画を持ち込んで営業をしましたし、そうしているうちに「『タカダワタル的』っていうのをやってみない?」とかちょっとずつ仕事がくるようになりました。
シャミ:
映画の業界自体にはもともと興味があったんですか?
タナダ監督:
映画の業界というよりもどうしたら自分が撮りたいと思う映像が撮れるのかっていうことが一番大きかったですね。
シャミ:
なるほど〜。では、監督になって良かったなって思うところや楽しいなって思う瞬間はどういうときでしょうか?
タナダ監督:
やっぱり良いお芝居が撮れた瞬間は、最前線で見られるっていう贅沢さがありますよね。そのためだけに早朝から深夜まで働いているので、良いお芝居が見られたときに一番報われたなっていう気がします。あとは逆に一生懸命撮ったものを編集でバサバサ切るということが快感です(笑)。本当に苦渋の思いではあるんですけど、最終的に作品が良くなることが一番なので、あのときは辛い決断をしたけど、作品としては良くなったって思えれば良いと思います。
シャミ:
監督業というお仕事以外に女優経験があったり、小説を執筆されたりもしていますが、監督以外のお仕事でおもしろいなと思うお仕事はありますか?
タナダ監督:
やっぱり書く仕事ですね。映画は本当に大人数の意見を聞きながら一つのものを作っていくのが難しいし大変なんだけど自分が思いもよらないアイデアが出るのがおもしろい。逆に小説は編集者と2人か自分1人ってことが大半で、人に頼ることができないっていうところの難しさがあります。でも“難しい=おもしろい”なので、書くことはやっぱりおもしろいなって思いますね。
シャミ:
では最後にトーキョー女子映画部のユーザーに向けて、本作の見どころとオススメポイントを教えてください。
タナダ監督:
あんまり男性とか女性ってことを意識して生きてきていないんですが、それでもやっぱり子どもを産むか産まないかが、女性には突きつけられます。そればかりはどうしても女性にしかできないことで、残念ながらタイムリミットがあることなので、この映画がそういうことを考えるきっかけになれたら嬉しいです。リアルタイムで不妊治療をしている方もいるかも知れませんし、他人がどうこう言える問題でもないんですけど、一人で思い詰めがちな問題だと思うので、そういうことをもっとオープンに話したり、何か気持ちが楽になったり、話すきっかけになったら良いなと思います。
2014年4月16日Blu-ray&DVDリリース(レンタル同時)
監督:タナダユキ
出演:永作博美/石橋蓮司/岡田将生/二階堂ふみ/原田泰造/淡路恵子
ポニーキャニオン
メーカーサイト 予告編
映画批評&デート向き映画判定 完成披露舞台挨拶
【映画を処方】苦しいのは、自分に正直に生きてないから?
子どもができずに苦労している娘の百合子は、夫の浮気相手に子どもができたことを知り自分が身を引くことを決意。母が突然亡くなり1人残された父が心配ということもあり実家に戻ると、派手な格好をした井本という少女が父の世話を焼いていた。彼女は、母が遺した“四十九日のレシピ”にある「四十九日には大宴会をして欲しい」という願いを叶えるべく来たと言い、彼らの奇妙な生活が始まった。
©2013映画「四十九日のレシピ」製作委員会