剣の実力者でありながら、ある事件をきっかけに生きる気力を失った研吾(綾野剛)と、恐るべき剣の才能を秘めた高校生の融(村上虹郎)の宿命の対決を描く映画『武曲 MUKOKU』。2017年12月6日にブルーレイ&DVDがリリースされた本作の熊切和嘉監督にインタビューしました。激しく魂をぶつけ合う男達の闘いを圧倒的な迫力と映像美で描き、2017年ニューヨークチェルシー映画祭では最高賞のグランプリ、監督賞、脚本賞の3冠を獲得したほか、各国の映画祭で喝采を浴びた本作。作品にかけた熊切監督の思いや、渾身の演技をみせた俳優達の役作りなど、映画製作の舞台裏についてたっぷりと伺いました。
PROFILE
1974年、北海道生まれ。大阪芸術大学の卒業制作作品『鬼畜大宴会』(1998)でぴあフィルムフェスティバルの準グランプリを受賞。同作はベルリン国際映画祭パノラマ部門ほか10カ国以上の国際映画祭に招待され、伊タオルミナ国際映画祭でグランプリに輝いたほか、日本国内でも劇場公開された。2010年『海炭市叙景』がシネマニラ国際映画祭グランプリ及び最優秀俳優賞やドーヴィルアジア映画祭審査員賞などを受賞。2014年『私の男』ではモスクワ国際映画祭最優秀作品賞と最優秀男優賞の2冠を達成し、毎日映画コンクールでは日本映画大賞を受賞。そのほかの監督代表作は『ノン子36歳(家事手伝い)』(2008)、『夏の終り』(2013)、『ディアスポリス-DIRTY YELLOW BOYS- 』(2016)など。
ミン:
文化庁の平成26年度新進芸術家海外研修制度で1年間パリに留学されていましたが、帰国と同時に本作の監督オファーがあったとか。引き受けられた決め手は何だったのでしょうか?
熊切和嘉監督:
原作小説の「武曲」とは別作品ですが、前に藤沢周さんの小説を読んだときに、堕ちていく男の描き方がとてもリアルで、この感じを映画にできたらと思っていたんです。それと、言葉ではなく身体表現を駆使した映画を撮りたいと思っていた時期で、この作品はまさにそうだと思って。
ミン:
身体表現を駆使した映画を撮りたいと思われたのはなぜですか?
熊切和嘉監督:
パリ留学中に、自分が撮りたい映画とはどんなものかを改めて考えた時期があって、いくつか脚本を書きながら、いろいろな映画を観なおしていたんです。パリではシネマテークや古い映画をリバイバル上映している劇場がいくつかあって、バスター・キートン特集やウィリアム・フリードキン監督の作品や『七人の侍』(1954)などを観たのですが、フリードキン監督の『フレンチ・コネクション』(1971)なんかは、しつこく走ることで何かを越えていくというか、走っているところで一番高ぶるじゃないですか。そういう作品を観ているうちに、自分も身体表現を使った映画を撮りたくなって。帰国して、プロデューサーの星野(秀樹)さんから監督のオファーをいただいたときには、すでに高田亮さんが書かれた脚本の第0稿も用意されていて、それを読んだときに「まさに撮りたかった作品だ!」と心がうずきました。
ミン:
心がうずく…ステキですね。撮影前には映画の舞台となる鎌倉の近くにわざわざ引っ越しまでされたそうですね。
熊切和嘉監督:
シナリオハンティングで鎌倉に行っているうちに土地自体を気に入ったのもあるんですけど、実を言うと、剣道映画を撮るのに僕自身が剣道の経験がないという後ろめたさがあって。何かしらこの映画の重要な部分を自分のものにしなくてはと思って、せめてロケーションに実感を持とうと引っ越したんです。
ミン:
なるほど。拝見しながら物語と土地の親和性をとても意識された作品だとは感じていました。うっそうと草に覆われた山の上の家で暮らす研吾はどこか世捨て人のようだし、海の近くに住んでいる融は溺れた記憶に取り憑かれている。2人が引きずる“影”のようなものが山と海という対をなすロケーションと密接に関係していますよね。
熊切和嘉監督:
まさに、2人が対になるように狙ったところでもあります。原作でどこまで細かく設定されていたかは忘れてしまいましたが、歩き回っているうちに“研吾は北鎌倉の山のほうに住んでいて、そこから鎌倉を経由して江ノ電に乗って七里ヶ浜まで行くと融が住んでいる”という、明確な地図が頭の中で描けたんです。それと、鎌倉は観光地でもあるけど、ちょっと死の匂いを感じる場所でもあるんですよ。鎌倉七口と呼ばれる切通しなどは古戦場ですから、そこで2人が戦うということにとても意味があるとも思ったんです。
ミン:
さすが、住まれただけありますね。俳優陣の熱演も本作の見どころですが、剣道経験のない綾野剛さんが実力者を演じるために、かなりストイックに役作りをされたとか。監督からご覧になっていかがでしたか?
熊切和嘉監督:
綾野くんは本当にストイックで、改めてすごいと思いました。何度か剣道の稽古を見に行きましたが、はじめは全然できなかったのにみるみる上達していくので頼もしかったですね。「30過ぎて、これはキツいっすわ」とか言いながら、汗だくになって一生懸命に竹刀を振っていました。
ミン:
身体表現で映画を撮りたいというところから始まっているので、当然その表現ができる俳優ということで綾野さんにオファーをされたのでしょうか。
熊切和嘉監督:
そうですね。徹底して役作りをしてくれる俳優ということで綾野くんにお願いしました。僕が監督をした『夏の終り』(2013)に出演してもらったときは短い時間しか関われなかったので、「またいつか一緒にやろうね」という話はしていましたし、まさにこのタイミングだと思いました。
ミン:
村上虹郎さんに融役をオファーされた理由もお聞かせいただけますか。
熊切和嘉監督:
虹郎くんには強い生命力を感じるんです。融は過去に生死を脅かすような災害に遭っているけど、それをあっけらかんと乗り越えるような強さがあって、そこにうまくハマったというか、虹郎くんで本当に良かったと思いますね。とにかく撮っていてキラキラしていました。
続きを読む>>>>> 1 2:圧巻の対決シーンの意外な真相とは…!? 3
2017年12月6日よりブルーレイ&DVD発売、レンタル開始
監督:熊切和嘉
出演:綾野剛
村上虹郎/前田敦子/片岡礼子/神野三鈴/康すおん
風吹ジュン/小林薫/柄本明
販売・発売元:TCエンタテインメント
矢田部研吾は、剣の達人であった父に幼い頃から鍛えられ、その世界では一目置かれる存在となる。しかし、父にまつわるある事件から生きる気力を失い、荒れ果てた生活を送っていた。そんな研吾を立ち直らせようと、もう1人の師匠である光邑師範がラップのリリック作りに夢中な高校生、羽田融を研吾に引き合わす。剣道の経験は浅いながらも、融は恐るべき剣の才能の持ち主だった…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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