ミン:
本作は父と息子の複雑な関係を描いた物語でもありますが、小林薫さん演じる研吾の父親の将造のように、父親というのは息子には素直に弱さを見せられないものなのでしょうか。
熊切和嘉監督:
大なり小なり父親と息子の関係のなかにはある感覚だと思いますよ。特に長男と親父だと、期待と同時にライバル心みたいなものがあるんじゃないかな。僕の周囲でも、自分もああいう親子関係だったという話は聞きますね。僕自身は末っ子だし、早く親元を離れたのもあって父親とは良い距離感を保っているとは思いますが。
ミン:
正直、「男同士って面倒くさい」って思ってしまった部分でもあります(笑)。女子目線で観たときにもう1つ引っ掛かるのは、将造は息子に対しては厳格な父親で、優しい妻もいるのに、風吹ジュンさん演じる三津子という愛人がいて、家族には見せない顔を外で見せていたわけですよね。ちょっと、許せません(笑)。
熊切和嘉監督:
うーん(笑)。これも人によりますが、家では見せない顔を別の場所で見せるということも多少はあることだと思うんですよね。研吾のなかでは封印していた思い出だったけど、最終的には、同じ男としてそれもひっくるめて父親を許せたということだと思うんです。
ミン:
三津子との思い出を受け入れるシーンでは、研吾自身が成長して、父親の呪縛から抜け出したようにも見えましたね。
熊切和嘉監督:
成長と言えるのかはわからないけど、僕自身はあの感じはすごく理解できますね。父親との関係が変わった瞬間がそこに描かれていると思います。
ミン:
原作では融はヒップホップに夢中な少年ですが、ノイズっぽい音楽に寄せたことで融の頭のなかの“混沌”とした感じとか、心の叫びとかがすごく伝わってきました。このアイデアはどこからきたのですか?
熊切和嘉監督:
原作では融のやっている音楽はもっと流行りの感じのラップですが、「仲間を大事にする」みたいな熱いメッセージを謳うのが個人的には信用できなくて(笑)、簡単に言うと好みじゃなかったんです。映画化するにあたってそこだけが引っかかって、オファーをいただいたときも「そこを変えても良いなら」という条件をプロデューサーに出してしまったくらい(笑)。
ミン:
そこから音楽を池永正二さんにお願いしようというのは、すぐに思い浮かんだのですか?
熊切和嘉監督:
冒頭のライブシーンは肝だと思っていて、かなり悩んでいたんです。あそこをどういうシーンにするかで、誰に音楽を頼むかも決まってきますし。それを考えていたら、ふと“あら恋(あらかじめ決められた恋人たちへ)”の池永くんの昔の姿が浮かんできて。彼は大阪芸大時代の後輩ですが、バンド編成になる前のソロ時代に暗闇で風船を背中にいっぱい付けてお客さんにお尻向けてライブしていたりしたんですよ。それを思い出したときに「あの感じか!」と思って。
ミン:
監督の思惑通り、あのライブシーンで冒頭からがっつり引き込まれました。では、時間も残り少なくなってきたところで、“女子に向けた”本作の見どころをお願いします!
熊切和嘉監督:
僕自身は、女子はラブコメより男同士の戦いのほうが好きなんじゃないかと思っているんです。泥まみれになったり、血と汗にまみれた男同士の対決を観たいという人が実は多いような気がしています(笑)。
ミン:
監督、スルどいです(笑)。ちなみに、特典映像のメイキングシーンでは、泥まみれになって戦う男達の舞台裏も観られちゃうんですよね?
熊切和嘉監督:
それはもう。女子が本当に好きなシーンが観られると思いますよ(笑)。
ミン:
観るしかないですね(笑)!本日は貴重なお話をありがとうございました。
2017年12月1日取材&TEXT by min
2017年12月6日よりブルーレイ&DVD発売、レンタル開始
監督:熊切和嘉
出演:綾野剛
村上虹郎/前田敦子/片岡礼子/神野三鈴/康すおん
風吹ジュン/小林薫/柄本明
販売・発売元:TCエンタテインメント
矢田部研吾は、剣の達人であった父に幼い頃から鍛えられ、その世界では一目置かれる存在となる。しかし、父にまつわるある事件から生きる気力を失い、荒れ果てた生活を送っていた。そんな研吾を立ち直らせようと、もう1人の師匠である光邑師範がラップのリリック作りに夢中な高校生、羽田融を研吾に引き合わす。剣道の経験は浅いながらも、融は恐るべき剣の才能の持ち主だった…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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