1館での公開からスタートし、140館を超える上映に広がった大ヒット作『チョコレートドーナツ』。大ヒットロングラン上映を受けて、再来日したトラヴィス・ファイン監督にインタビュー!本作のプロデューサーである奥様のクリスティーン・ホスステッター・ファインさんにもご同席頂きました。本当に仲睦まじい様子のお二人。奥様のクリスティーンさんも本作のパーティーのシーンにカメオ出演しているので要チェックです!
PROFILE
1968年6月26日生まれ、アメリカのジョージア州アトランタ出身。7歳で演技に興味を抱きはじめ、俳優として活動する傍ら、脚色や演出としても経験を積んできたが、2001年にアメリカで起きた同時多発テロに心を痛め、一旦エンターテイメント業界を離れる。飛行機学校に入学しパイロットになるが、脚本は書き続け、エンターテイメント業界に復帰。定期旅客機の自動操縦中の甲板で書いたとされる“The Space Between”は9.11の混乱のなかで出会うフライト・アテンダントと少年の物語で、同作はオスカー女優のメリッサ・レオを主演に映画化、トライベッカ映画祭で世界プレミア上映された。俳優としての出演作は『チャイルド・プレイ3』『シン・レッド・ライン』『17歳のカルテ』『トムキャッツ 恋のハメハメ猛レース』など。監督作としては『チョコレートドーナツ』が初めての日本公開作となる。
2014年12月2日ブルーレイ&DVDリリース(レンタル/デジタル配信同時)
監督:トラヴィス・ファイン
出演:アラン・カミング/ギャレット・ディラハント/アイザック・レイヴァ/フランシス・フィッシャー
ポニーキャニオン
1979年、カリフォルニアで起きた実際のできごとをもとに映画化。シンガーを夢見ながらもショーダンサーとして日銭を稼ぐルディは、ある日お客として店に来ていた弁護士のポールと出会う。同じ頃、ルディは隣りに住むダウン症の少年マルコが母親に育児放棄され一人で部屋に閉じこもっているのを発見し、一時的に預かることに。ルディはマルコを何とかしようと弁護士のポールに相談するが、ポールはルディが自分の“日常”に現れたことに戸惑い、心ない態度を取ってしまう。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定 監督&アイザック・レイヴァ親子来日会見
第45回部活リポート 【映画を処方】虚栄で作られた人生からの脱却
イイ男セレクション/アラン・カミング
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マイソン:
本作で脚本を手掛けたジョージ・アーサー・ブルームさんは、モデルとなった男性の近所に住んでいたとのことですが、脚本はいつくらいに作成されて、どうやって監督はこの脚本と出会ったのでしょうか?また、事件から長期間経った今、映画化までこぎつけた経緯を教えて下さい。
トラヴィス・ファイン監督:
1979〜80年頃に脚本が書かれ、何度か映画化が試みられましたが実現されず、30年間経った今、映画化されることになりました。私は脚本家の息子さん(本作でミュージック・スーパーバイザーを務めるPJブルーム)と友達で、「父(ジョージ・アーサー・ブルーム)の脚本を読んでみる?」と言われて読ませてもらい、変更を加えることも許可してくださったので、映画化することに決めました。脚本では最初ポールはいませんでしたが、ルディとマルコの関係性にとても惹かれました。本作で、マルコのお母さんが麻薬常習者でというのは事実に基づいています。ルディがマルコを養子に迎えるにあたって法廷で争いましたが、その部分はフィクションなんです。でも、本作の二人のプロデューサーはゲイなのですが、彼らが実際に養子をとろうとした2010年にこういう法廷闘争を経験しています。彼らは脚本ができたあとにこの映画に携わることになりましたが、脚本を読んで「なぜ僕たちの経験を知っているのか」っていう反応で、実際にそういうことがあったということです。
マイソン:
この事件(映画のラストのできごと)が実際起きたとき、本国の方々はどれくらい関心を持ったのでしょうか?
トラヴィス・ファイン監督:
彼(劇中ではマルコにあたる少年)がどうなったかは調べましたが、実はわかっていないんです。だから記事にもなっていません。
あのラストに涙した観客が多いとはいえ、監督は涙を誘うことを狙ってあのラストにしたわけではないとのこと。ではなぜあの衝撃的なラストで終えることになったのかというお話に及びました。
トラヴィス・ファイン監督:
もともとはハッピー・エンディングだったんですね。麻薬中毒のお母さんも含めて食卓を皆で囲むというのが当初の構想だったのですが、脚本を読んでもらった知人に「ずっと最後まで正義が貫かれないということが語られているのに、最後で急にめでたしめでたしになるのはおかしい」と言われたんです。肌の色、宗教、性的嗜好で家族を選べない、好きな人を選べないという状況はアメリカでも世界でも今でもある状況で、そのことを観客はわかっているのに、最後にハッピー・エンディングになるのはおかしいので、ああいったラストで括ることにしました。
マイソン:
では、アメリカ本国で1番関心が持たれた本作のテーマはなんだと思いますか?
トラヴィス・ファイン監督:
アメリカのいろんな州や海外でも観客賞を獲っているんですが、愛する人を喪失する、真実の愛を見つける、血の繋がりじゃなくて心の繋がりができる、そういう部分に皆さん惹かれたのだと思います。政治的、社会的意味合いよりも、ラブストーリーの部分にね。
マイソン:
それでは少し話題が変わりますが、監督は9.11の事件後、一度エンターテイメントの世界から離れて飛行機のパイロットに転向されたと資料で読みましたが、なぜ飛行機だったのかというところと、またエンターテイメントの世界に戻ろうと思ったきっかけを教えて下さい。
トラヴィス・ファイン監督:
演技の先生(俳優のジェフリー・タンバー)に「君の怖いことは何だ?」と聞かれて「飛行機で飛ぶことだ」と言ったら、じゃあやってみなさいと言われ、あんなに怖いと思っていたことがやってみたら好きになって、その恐怖を克服できたということがすごく大きな体験になりました。パイロットになったのは飛ぶのが楽しかったからです。パイロットをしているあいだも物語や脚本を書くことは続けていて、そのとき妻とすごく良い製作のパートナーができ、伝えたいことがあってエンターテイメント業界に戻りました。自分たちが大事だと思う物語を伝えることが、映画作りの一番の動機になります。
マイソン:
映画はエンターテイメントとしての役割と、社会風刺や、文化を語り継ぐといったような側面もあります。監督にとって映画の役割は何だと思いますか?
トラヴィス・ファイン監督:
これが正しい答えになるかわかりませんが、良いお話を伝えるということが一番重要なんだと思います。それが昔の話、近未来の話、宇宙の話だったとしても、他の時間、他の場所で起きたお話を観ることによって、観客が自分と重ねる、映画とはそういうものだと思います。
2014.9.12 取材&TEXT by Myson