映画『フロントランナー』来日記者会見:ヒュー・ジャックマン
1988年に行われたアメリカ大統領選挙にまつわる実際のスキャンダルを映画化した本作の PRのため、主人公のゲイリー・ハートを演じたヒュー・ジャックマンが来日しました。本作に出演しようと決めた理由について「2つほど理由があります。1つ目はジェイソン・ライトマン監督と仕事がしたかったからです。『JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』『サンキュー・スモーキング』、こういう映画が私は大好きで、彼と仕事ができる機会を待っていたんです。彼が演出するキャラクターは、白黒ハッキリしないような複雑なキャラクターです。違ったいろいろな作品にチャレンジしていて、感慨深い、いろいろな気持ちを呼び起こす作品を持っていると思います。2つ目の理由はストーリーに引き込まれたからです。(次期大統領として)最有力候補とされていた人が政界から転落するまでの3週間のストーリーですが、今まで私がやった役とは全く違います。非常に謎めいたプライベートな人ですし、非常に知性のある頭の切れる人で、私とはちょっと違いますが、チャレンジしたかった。皆さんこの作品を観ると、きっと疑問が生まれると思うんですが、答えを出していないところを私は気に入りました。今の政治的な制度、アメリカだけではなく世界中の制度に対していろいろ考えさせられるような作品になっていると思いますし、どの人についていくか、どの視点から映画を観るかというのが大事で、それを自由にやらせてくれる作品だと思います。私は21歳で大学を卒業しましたが、その時専攻していたのがジャーナリズムだったんですね。もし俳優になっていなかったら、今皆さんが座っている席に私が座っているということもあり得たと思うんです。非常にジャーナリズム、マスコミ、プレスに関して私は興味があって、まさに1987年のこの出来事は政治家とジャーナリズムを変えてしまったというストーリーだと思います。今この時代になったというのも、過去にこういう出来事があったからということで、ターニングポイントになったと思います。ジャーナリストが記者会見の席で次期大統領候補に「あなたは不倫をしていますか?」という質問はそれまでにあり得なかったことですし、3人のジャーナリストが彼を待ち伏せして、朝の2時頃に路地裏で質問するなんてこともあり得なかったんです。そういうことが初めて起きた、そういう時代です」と背景を詳しく語ってくれました。
次に「いろいろなものを失ったゲイリー・ハートが、逆にこの出来事で得たものがあるとしたら、何だと思いますか?」という質問について、「実はゲイリーさんから直接聞いたんですけど、自分の人生において一番酷かった、辛い3週間についての映画だと言っていました。しかし彼は上院議員を長く務めて、この出来事の後もいろいろなことをやっているんです。つい最近彼は妻のリーさんと61回目の結婚記念日を祝っており、2人はまだ一緒にいるんです。大統領予備選を辞退したのも家族を守りたいというのが一番大きなことだったと思うし、選挙制度というものの神聖さも守りたかったということもあります。彼のチームは予備選を辞退しなくても済む方法があったんじゃないかと言っていますが、彼はそういう道はとらない。いずれにしても公職にある人達とジャーナリズムの関係があの時から変わっていったということは否めないと思います」と答えました。
「スキャンダルの発覚前まで、ゲイリー・ハートが国民の心を掴んでいた要因を教えてください」という質問については、「すごくリサーチしました。今回初めて、まだご存命の方を演じるわけで、彼がこの映画を観てどういう感想を持つかということに非常に責任を感じました。彼が自分の話を語るんじゃなくて、私が彼になって語るわけですから、そういった責任感は感じておりました。彼は当時も今も非常に理想主義者なんです。若い人達をインスパイアする技術を持っていましたし、1984年、1987年は若い人達に非常に支持されて、ジョン・F・ケネディの再来ではないかと皆から言われていたんですね。変革ができる人間だと思われていました。彼が一番政治家として優れていたのは、10年、15年先を見ていたということなんです。ある時彼は、スティーブ・ジョブズとガレージでお昼を取っています。まだスティーブ・ジョブズがガレージでコンピューターを作り始めた頃ですね。そんなスティーブとの会話の中で、これからはコンピューターの世界になるからすべての教室にコンピューターを入れるようにしようというような発言をしています。これが1981年。1983年にはアメリカはあまりにも石油にこだわり過ぎているということで、中東での戦争になりかねないと発言していましたし、1984年にゴルバチョフと会っていて、冷戦時代は終わったけど、中東で過激派が生まれるということも予測しています。そして2000年にはテロの襲撃を受けるという警告もしているんですね。ですからこのような人がリーダーになっていたら、非常に違った世の中になっていたと思いますし、本当に人々に愛されていたし、今でも愛されているんですね。より良い世界を築けた人ではないかと思います」と、ゲイリーの魅力について詳細を話しました。
「SNSがなかった時代から、今SNSがある時代になって、ジャーナリズムはどう変わったと思いますか?もしゲイリー・ハートが今政治家だったら、SNSをどう活用したでしょう?」と聞かれると、「ジョージ・ステファノプロス(クリントン大統領のコンサルタントだった人物)さんが言っていたのは、ゲイリー・ハートのシチュエーションはいろいろなことが変わりつつある時代だったということです。今情報にアクセスするということに限界がなくて、何でもアクセスできます。政治家は単なる政治的なリーダーとして思想とか政策だけをやっているのではいけない時代で、要するに人から好かれる、共感される人物でなくてはいけないし、今情報が早すぎて本当にリアルタイムですべてをやっていかなくてはいけない。コマーシャルでは政治家はカッコ良く見えたりするわけですけど、チームの裏側は雑然とした状況ですし、即断しなきゃいけないことがいっぱいあります。だからこれは政治家にとっても大変ですし、ジャーナリスト達にとっても大変な時代になってきたと思うんですね。もう反省する、考え直す時間がない。以前はデッドラインが夜の11時だったら1日書く時間があったとしても、今はすぐに書かなくてはいけないという時代になっていると思います。私は1991年に学校を卒業して、ジャーナリストになろうという気持ちもあったんですけど、非常に難しい時代だったと思います。(ジャーナリストの)仕事もだんだん減ってきているし、必ずしも経験豊富だから良いモノを書けるかというと今はブログですべての人が書ける時代ですし、だから私はジャーナリストの方々にものすごく尊敬の念を持っています。質の良いものを書くのがどんなに大変かというのも本当にわかります。そしてもしSNSがあったら、ゲイリーはたぶん気に入らなかったと思います。もちろん受け入れるしかないと思いますが、ある時彼のチームの1人が言っていたんですが、我々が皆でXをやろうよと決めた時にゲイリーはミーティングを止めて、”Xは今この時代、この場では良いけど、果たして私達がホワイトハウスに8年いるつもりと考えた時に、良いかどうか”と、グローバルにすべての国にとってそれが影響を及ぼす8年間のことを考えなければいけないと、非常に慎重な発言をしています」と述べました。
自身ももともとジャーナリズムに深い関心があるだけあって、すごく内容の濃い回答をしてくれたヒュー・ジャックマン。ヒューのこの話を聞いた上で本作を観ると、より理解が深まり、広い視野で観ることができると思います。ぜひいろいろな視点で本作を楽しんでください。
映画『フロントランナー』来日記者会見:2019年1月21日取材 TEXT by Myson
『フロントランナー』
2019年2月1日より全国公開
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト
トーキョー女子映画部での紹介記事
■映画批評&デート向き映画判定、キッズ&ティーン向き映画判定
■TJE Selection イイ男セレクション/ヒュー・ジャックマン
■TJE Selection イイ男セレクション/J・K・シモンズ
■TJE Selection イイ男セレクション/アルフレッド・モリーナ
→トーキョー女子映画部サイトに戻る
もし俳優になっていなかったらジャーナリストに『フロントランナー』ヒュー・ジャックマン来日 はコメントを受け付けていません