映画『グリーンブック』来日記者会見:ピーター・ファレリー監督/伊藤健太郎(ゲスト)
2019年2月25日(日本時間)に発表された、第91回アカデミー賞で、見事に作品賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)、脚本賞を受賞した本作。この度、監督を務めたピーター・ファレリーが来日を果たしました。登壇した監督は、ここまで評価されたのはなぜだと思うかと聞かれると「この作品の強みは、観ている方に希望を感じさせてくれるところなのではないかと自負しています。主人公の2人は真逆。けれども彼らはお互いと話をすることで、2人の間の共通点を知ることができました。たった話すというその行為だけで。こういうタイプの物語はなかなか希望を持たせてくれるものが少ないと感じます。けれどもこの2人の実話という意味では、彼らは生涯の友になりましたので、非常に希望がある部分が響いたのだと思います」と答えました。
続いて、アカデミー賞受賞後、一部物議があったことについて、監督がどう捉えているかという質問があがりました。「投票したのはアカデミー会員の方で、他の作品が(ふさわしい)という方もいらっしゃったでしょうけれども、自分ではコントロールできないことです。なのであまり気にしないようにしています。ただ『グリーンブック』はそれまでの賞シーズンの中で、トロント映画祭(観客賞)、ナショナル・ボード・オブ・レヴュー賞(作品賞、主演男優賞)、ゴールデン・グローブ賞(作品賞、助演男優賞、脚本賞)などを受賞していたので、(この作品がアカデミー賞作品賞を受賞したことに)なぜそこまでショックに感じる方がいるのかなと思ったりはしました」と胸の内を明かしました。
次に「1960年代は黒人差別が色濃くあったと思うが、少しソフトに描いていたように感じた」という意見に対して、「1960年代のアメリカ南部では人種差別が激しく、それこそ殺される方もいらっしゃったくらい、恐ろしいことがたくさんありました。ただ主人公2人はその道のり、旅の中ではそういう出来事にはあっていないんですね。だから彼らの身に起きたことという考え方で描いていき、敢えて誇張するということをしていません。もちろん、1960年代のアメリカ南部はもっと人種差別が激しかっただろうという批判も頂戴していますが、この2人の経験をそのまま描きたいという気持ちからこういう表現を選びました」と返しました。
そして、この日はゲストとして、『グリーンブック』が大好きだという伊藤健太郎が登壇。伊藤健太郎は「僕はこの映画が大好きになりまして、監督が来日されるということで、ぜひお会いしたいということで来させて頂きました」と挨拶。そんな伊藤は監督に「僕は車がすごく好きなんですが、この車(グリーンのキャデラック)を使う上で、候補はいろいろあったんでしょうか?」と質問。監督は「今回使ったキャデラックは、モデルも、実際に2人が旅で回った時に乗った車を使っているんです。ただ実は本物は色が黒だったんです。今回は映画を作る時に、モノクロタッチの色彩設定をしたので、あまり色味がないと脳が疲弊してしまうので、少し色味をと思って、車だけはグリーンにしたんです」と明かしました。続いて「コメディを演じるのも観るのも好きなんですが、監督がコメディを撮る上で気を付けていることは何ですか?」と伊藤が質問すると、「コメディを作る時というのは、ネタから考えるということは一切ないんですね。まずは自分達が好きだと思えるキャラクターを造形することが大切。そして観客の方が好ましく思って下されば、ジョークもどんなものでも受け入れてくださる。その良い例が、『メリーに首ったけ』のヘアジェルのシーンですね。あの2人の役者さんにたぶん皆さん感情移入して、好ましく思っているからこそ、ジョークも効くわけですから」と答えました。なるほどですね!
さらに、伊藤についての印象を聞かれた監督は「ムービースターらしさをすごく感じます」とコメントし、いつか一緒に仕事をしようと言われた伊藤は「そうですか?嬉しいな。そんなことあまり言われたことがないので」と照れた様子で、「僕はこの言葉を忘れずに頑張って、いつか(ハリウッドに)行った時には“あの時の言葉忘れてませんよね?”と言いたいと思います」と抱負を語りました。
最後に、ファレリー監督は「本当にありがとうございます!大変光栄に思っています。今回初来日となって本当に素晴らしい体験でしたので、できるだけ早く日本に戻ってきたいと思います。そして、本作はぜひ日本の観客の皆さんにも希望を感じて頂きたいと思います。世界中が本当に厳しい時代になっていて、例えば自分の住むアメリカでも人種についても含めて、問題があるわけですが、いつだって希望はあると僕は信じています。お互いに話すことさえできれば、希望は奪われることはないと考えています。話すことによって、乗り越えられるだなんてクサイんじゃないとか、そんなことで平和が得られるなんてシンプル過ぎるんじゃないかと思われるかも知れませんが、でも話すことから始めなければどこにもいくことができません。それがこの作品のメッセージの一つになります」と締めくくりました。
監督が熱く語られていたように、本作は人はわかり合えるということに希望をもたらしてくれる素敵な作品です。数々の映画賞を受賞していることを抜きにしても、本当にオススメですよ。
映画『グリーンブック』来日記者会見:2019年3月5日取材 TEXT by Myson
『グリーンブック』
2019年3月1日より全国公開中
配給:ギャガ
公式サイト
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