映画『her/世界でひとつの彼女』来日トークイベント、スパイク・ジョーンズ監督、鈴木敏夫氏(スタジオジブリ・プロデューサー)
2014年5月29日、『her/世界でひとつの彼女』のPRのため来日していたスパイク・ジョーンズがトークイベントに登壇。そこへ2014年夏公開を控えた『思い出のマーニー』の制作中で多忙にも関わらずスタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫氏がゲストで登場、奇跡の豪華対談が実現しました。鈴木氏は「今日なぜ来たかというと、『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』『かいじゅうたちのいるところ』とか、スパイクの大ファンなんです。それでいろいろありましたが今日は来ました」と挨拶。スパイク・ジョーンズも今日のゲストが鈴木氏だと数日前に聞いて大興奮だったそうです。
まず鈴木氏は本作について「僕は普通の人間がコンピューターに恋をすることができるのかって、ちょっと疑いながら見たんですけどね。見ているうちにこれはちゃんと成立しているって感動したんですよ。でも、彼の映画っていつも主人公が一貫してて、常にうだつの上がらない人ですよね。決してヒーローじゃない。あるときそんな主人公に狂気が起こるというか、それを観ていてすごく快感があります。10数年で長編映画4本ということですが、もっと作ってください(笑)」と感想と今後の作品への期待を述べました。その鈴木氏の言葉に対して、スパイクは「共感して頂けるというのはすごく嬉しいことで、ジブリ作品もそうだと思いますがマジカルなことが起きるストーリーでも、キャラクターに起きていることはリアルでなければいけないと思うんです。それがやはり共感を呼ぶし、でもそのためには作り手である我々がまず共感して思いやり、エンパシーを持って作らなければならないと思っています。自分たちの夢を映像化する上でいかにリアルに伝えられるかが1つのチャレンジだし、楽しいところです」と返しました。そしてさらに鈴木氏が「どうしてああいう主人公を選んで映画をお作りになるのか、それが一番聞きたかったんです」と質問すると、「もしかしたら自分自身がよりそういったタイプのキャラクターに共感するからかも知れません。何か自分について模索しながら生きていますし、人生の変化のなかでいろいろ悩んだりするわけで、人生はミステリーでもあるし、自分もそうだからというのがあるかも知れません」と答えました。
次に声だけで演じたスカーレット・ヨハンソンについて鈴木氏が称賛しキャスティングの経緯について訪ねると、スパイクは「キャスティングは25人くらいの女優さんのオーディションをさせて頂きました。視覚的な表現がないなかで声だけで演技をしなければいけないということが大きなチャレンジなわけですが、そのなかで自分が脚本を書いたときに感じていた(人工知能の役柄の)知性とか深いエモーションを感じさせられる声を持っていたのはスカーレット・ヨハンソンだったんです。実は4、5ヶ月レコーディングを重ねました。その度により掘り下げてたどり着きたいと思っていたところに到達することができました。彼女の魅力、本質が今回伝わったんじゃないかと思います。自信と自分をよく知っているというのが表れていて、声だけでもセクシーなんですよね。撮影に関しては、ホアキンと別の役者さんでまず撮影をして、その後スカーレット・ヨハンソンの声を録音するという作り方をしています」と制作秘話を語ってくれました。
そして、鈴木氏は「21世紀に映画を作るとき“孤独”っていうのは大きなテーマなんですよね」と話すと、スパイクは「おもしろい考察ですね。考えたことはなかったですが、そうすると40年前、50年前はあまり映画制作という意味で孤独っていうのはなかったんでしょうか?」と逆に鈴木氏にさらなる見解を求めると、鈴木氏は「孤独っていうのはあんまりなかったと思うんですよ。実は今回僕らが作っている映画『思い出のマーニー』もそうなんですよね。いろいろやっているうちにそうなったんですけど。僕らが生まれたときは例えば映画は公共の場で多くの人が観るものだった。そのあとテレビが出てきて、テレビは日本では家族で観るものだった。ところがネットというか、スマートフォンその他が出てきて(その単位は)個人じゃないですか。技術革新によって人々の暮らしも変わったし内面も変わってきている、そんな時代が来ているときに彼の映画は意味を持つと思います」と述べました。スパイクは「歴史的な文脈のなかで孤独にというテーマは考えたことはなかったので非常に興味深いです。でもそういう孤独を抱える我々でもこうやって分かち合う、話すことによって、その寂しさが少しでも安らぐというのが希望でもあります」と答えました。
映画人お二人のトークはいつまでも聞いていたいなと思うほどとてもおもしろく、やっぱり人や世の中の事象への洞察、考察が鋭いので、お話を聞いているこちらも刺激を受けました。本作はAI(人工知能)型OSとのラブストーリーでありつつ、とても人間臭い部分も描かれた内容です。今回のトークイベントで語られた“孤独”の質などにも注目して観てみてください。
『her/世界でひとつの彼女』2014年6月28日より全国公開
配給:アスミック・エース
トーキョー女子映画部での紹介記事
辛口?甘口?映画批評&デート向き映画判定
http://www.tst-movie.jp/hh06_ha/hh06_ha_her_sekaidehitotsunokanojyo.html
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スタジオジブリ鈴木敏夫氏の時代を読む考察にスパイク・ジョーンズ監督が感心 はコメントを受け付けていません