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18 8月

映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏が語る、貴重な映画音楽ドキュメンタリーの魅力『すばらしき映画音楽たち』

Posted in 未分類 on 18.08.17 by Merlyn

映画『すばらしき映画音楽たち』トークイベント、宇野維正氏(映画・音楽ジャーナリスト)映画『すばらしき映画音楽たち』トークイベント、宇野維正氏(映画・音楽ジャーナリスト)

ハリウッド映画史を彩る輝かしい音楽は、いかにして生まれ、どのような変遷を遂げているのか。その裏側に迫る世界初の音楽ドキュメンタリー映画『すばらしき映画音楽たち』が、新宿シネマカリテで2017年7月15日~8月18日に開催された「カリコレ2017/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2017」(以下、カリコレと表記)で上映され、8月6日の上映回のあと、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏をゲストに迎えたトークイベントが行われました。

『スター・ウォーズ』のジョン・ウィリアムズ、『ダークナイト』『ライオン・キング』のハンス・ジマーをはじめ、名作曲家と呼ばれるアーティスト達の本音や創作秘話が次々と明かされていく本作。映画音楽ファンならば、貴重なインタビュー映像と作品映像の豊富さに感動を覚えるでしょう。宇野氏は「“映画音楽が好き!”というマット・シュレーダー監督の思いがストレートに伝わってくる作品。ためになったし、大変おもしろかった!」と感想を語りました。

『すばらしき映画音楽たち』ハンス・ジマー

ハンス・ジマー

ハリウッド映画100年の歴史のなかで、オーケストラ・スタイルからデジタル制作へと潮流を変える映画音楽。本作ではその歴史を紐解きながら、それぞれの魅力にも迫ります。宇野氏は音楽同様にフィルムからデジタルへと移行する映像制作や、その文化的価値についても触れ、「クエンティン・タランティーノや、クリストファー・ノーラン、ポール・トーマス・アンダーソンは今でもフィルムで映画を撮っています。お金も莫大にかかるし、上映館も限られるのにフィルムを使うのは、作家としての純粋な欲求と共に“フィルム文化を守る”という動きでもありますよね。そういった点で、彼らは芸術的なトップ・ディレクターと言っていいと思う。ハンス・ジマーはデジタル以降の映画音楽家の代表格にも関わらず、オーケストラを維持するのは映画音楽にとって生命線だと言っています。そこに説得力を感じるし、オーケストラを守ることは、オーケストラ・レコーディングのできるスタジオを守るということでもある。シュレーダー監督はオーケストラによる映画音楽が純粋に好きでこの作品を撮っているけど、結果的に、“映画音楽におけるオーケストラを守る”という意義みたいなものが、監督の意図を越えて生まれているように感じました」と解説しました。

オーケストラ映画音楽の伝説的な人物として本作に登場するジョン・ウィリアムズについては「“スター・ウォーズ”シリーズのように、全編でオーケストラの音を聴けるスコアは減っていて、同作の感動はそこにもあるんですよね。皆が知っているメインテーマだけじゃなく、新シリーズの度に作られる新曲が、1977年当時から全然レベルが下がっていないことにも驚きます」と、その偉大な才能について語り、ジョン・ウィリアムズと並ぶ巨匠として登場するハンス・ジマーについては「クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』では、オーケストラの良さも含めた異次元ハンス・ジマーが展開されていて驚きました。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ブレードランナー2049』(2017年10月27日全国公開)では、僕が今一番好きな音楽家で、同じくヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』などを手掛けたヨハン・ヨハンソンが音楽を担当するはずだったのに、ハンス・ジマーに引き継がれてしまったんです。同作クラスになると、ハンスさんの手を借りなくちゃいけないんだなと、衝撃でした(笑)」と冗談を交えながら、その大物ぶりをわかりやすく語りました。

“ポスト”ハンス・ジマーは誰か?という質問には、「オーケストラとデジタル、2つの大きな映画音楽の流れを跨いで突出した作品を生み出しているという意味で、本作にも登場するトーマス・ニューマンと、もう一人は坂本龍一さん。トーマス・ニューマンの手掛けた『007 スカイフォール』は、ここ10年間くらいでは突出していると思います。全編2時間23分のあいだ、ほぼ音楽がかかっていて、しかも細かいカット割りや動きに音が連動している。音はオーケストラだけど全部デジタル編集されていて、どうやって作っているのか、プロでもわからないんですよね」とその手腕を賞賛しました。

『すばらしき映画音楽たち』ジャンキーXL

ジャンキーXL

今後、注目すべき音楽家については、前述のヨハン・ヨハンソンのほか、『マッド・マックス 怒りのデスロード』のジャンキーXL(トム・ホルケンボルフ)、本作には登場しないものの『スパイダーマン:ホームカミング』のマイケル・ジアッキーノなどを挙げた宇野氏。さらに、映画館と映画音楽の関係性についても触れ、「90年代後半にドルビーシステムが映画館に普及していったのと連動していると思いますが、旋律で聴かせる映画音楽から、音圧と音響重視になってきていると思います。象徴的なのはやはりハンス・ジマーですが、低音がすごくデカい。あれを家で楽しもうと思ったら、よほどお金をかけてシステムを構築しないと。そこに、映画館で映画を観ることの意味が付いてきていると思うんです。配信などで高レベルのコンテンツが観られるようになった今、映画館に人を呼ぶためにIMAXや3Dなどがあるけど、それよりも、あの音量や音圧で映画を観られるのが、映画館に行く一番の理由なんじゃないかと思うし、皆、それに無意識に気付いているんじゃないでしょうか。ハンス・ジマーやジャンキーXLの音楽は、そこにマッチしているんだと思う。これだけ新作を観ていると、音環境も体に染みついているから、オーケストラだけの映画を観ると、良くも悪くもやっぱり古いなって思っちゃうんですよね」とコメント。

最後に、今後の映画界における音楽家と監督の関係性について「本作を観てわかるのは、映画音楽家には一人ひとりにセオリーがあり、基本的に特殊技能だということ。ハッキリ言うと、ハリウッド大作は5、6人の音楽家に仕事が集中しています。おそらく彼らは突出した才能があるだけではなく、何百億という予算のプレッシャーに負けず、納期を守るという特殊技能も持っているんだと思う(笑)。ヒッチコックもスピルバーグもそうだけど、名匠にはお気に入りの音楽家がいます。デヴィッド・フィンチャー監督は、ほぼ全作品をナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーや、アッティカス・ロスと一緒にやっているけど、新しいパートナーシップを監督と築くのは、ポピュラー・ミュージックやバンド出身の人が多いですよね。ポール・トーマス・アンダーソンもレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドと組んでいるし、トム・ヨークもイタリアのダリオ・アルジェント監督と組んでリメイク版『サスペリア』(2017年8月現在、日本公開未定)の音楽を手掛けているし。トップ・バンドのヴォーカリストが映画音楽をやるのが、ミュージシャンにとってのセカンドキャリアとして確立されつつある。ダンス・ミュージックも含めたポピュラー音楽の人達が映画音楽界に参入して、監督と密接なパートナーシップを築いているのが、今の映画音楽の最先端ではないでしょうか」と語りました。

映画『すばらしき映画音楽たち』トークイベント、宇野維正氏(映画・音楽ジャーナリスト)通常、上映後に行われるトークイベントの場合は、上映だけを観て帰ってしまう観客もいますが、今回のトークイベントでは観客のほぼ全員が参加し、宇野氏のトークに興味深そうに耳を傾けていました。カリコレで上映された回のチケットは即日完売となった本作。まだまだ語りきれぬ映画音楽の魅力と秘密がたっぷりと描かれています。2017年10月7日からはシアタ・イメージフォーラムほか全国順次公開も予定されていますので、詳しい公開情報は、ぜひ公式サイトでご確認ください!

トークイベント:2017年8月6日取材 TEXT by min

 

『すばらしき映画音楽たち』ハンス・ジマー『すばらしき映画音楽たち』
2017年10月7日よりシアタ・イメージフォーラムほか全国順次公開
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