映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』来日ティーチインイベント:ヴァレリー・ファリス監督、ジョナサン・デイトン監督
FOXサーチライト・ピクチャーズが提供する『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』を監督したヴァレリー・ファリス、ジョナサン・デイトンが、夫婦揃って『リトル・ミス・サンシャイン』以来12年ぶりの来日を果たしました。今回のイベントではたくさんの質問に答えていたので、質疑応答形式でお届けします。
Q:エマ・ストーンをキャスティングした理由は?
ジョナサン・デイトン監督:
私達はとにかくエマ・ストーンがずっと好きで、何年も一緒に仕事がしたいと思っていました。彼女はどんな役だって演じられると思うんですけど、ビリー・ジーン・キングの持っている精神みたいなものをエマも持っていて、そこが気に入りました。
ヴァレリー・ファリス監督:
エマはビリー・ジーンをとにかくやりたいと言っていて、私達はそれを断るようなバカなことは絶対にできませんでした。
Q:当時(映画の舞台は1973年)のビリー・ジーン・キングは、お2人にとってどんな存在でしたか?
ジョナサン・デイトン監督:
子どもの頃はテレビでよく見かける存在だったんです。よく覚えているのは、彼女がコートでプレーしている姿よりも、彼女がコートの外で言っている言葉、ウーマンリブの代表的な存在でした。
ヴァレリー・ファリス監督:
当時、彼女が男女の平等や、賞金額を同じにして欲しいと訴えていたということは、全然知りませんでした。とにかく一番有名なアスリートだったことは覚えています。
Q:ビリー・ジーン・キングは撮影現場に来たり、すごく協力的だったそうですが、実在の人物がすぐ側にいたことや、実在する人物を描くことでの苦労や発見はありましたか?
ヴァレリー・ファリス監督:
ビリー・ジーンはお会いした時に、本当に大きな存在で、私達は彼女の物語をちゃんと描こうという責任をすごく感じましたし、エマもそれを感じたと思います。非常に意見をはっきりおっしゃる方だし、撮影中もずっと彼女が見守っているというか、見張っているという、実はそうじゃないんですけど、そんな気がしました。
Q:ご夫婦で監督をされていて、撮影現場で“バトル・オブ・ザ・セクシーズ”になること、ケンカになることはないですか?
ジョナサン・デイトン監督:
現場ではないです。家ではしていました(笑)。
ヴァレリー・ファリス監督:
競争し合っているわけではないし、映画作り自体に大変なことがたくさんあるので、戦っている場合ではありません。できるだけ論争など争いごとは家で全部解決して、現場では戦わないようにしています。
Q:具体的にお2人で仕事を分担されているのでしょうか?
ジョナサン・デイトン監督:
本当に2人ですべて一緒にやるので、役割分担というものがないんです。2人いるので非常に便利というか、良いことは、家でシーンを全部読み合えるので、現場に着いた時には、俳優さんがどういう気持ちでそのシーンを演じるのかよくわかっているんです。
ヴァレリー・ファリス監督:
とにかく決定事項はお互いにすべて確認し合ってやっています。仕事が大好きだし、だからといってふざけたり笑っているそういう現場ではなくて、一生懸命にやっています。1つルールがあって、“クソ野郎”みたいな奴は最初から雇わないんです。初めからキャストもスタッフも尊敬できる人、上手くやっていける人を選んでいます。だから楽しいけど、パーティーをしているわけではないんですよ。
Q:コスチュームデザインに関して指示されたことはありますか?
ヴァレリー・ファリス監督:
私達は衣装にしてもすべてについて指示するんです。今回のテニスウェアに関しては、テッド・ティンリングがデザインしたオリジナルを全くそのまま再現しているんです。テニスウェアは、それまで白だったのですが、彼が初めて色を使ったんです。ある時はすごく斬新なデザインもやっていて、ウィンブルドンである女性選手に下着というかレースを使った見えるパンツを作って、ウィンブルドンから追い出されたということもありました。
ジョナサン・デイトン監督:
衣装ももちろんその時代のものにしようと思ったのですが、それだけじゃなくて下着もすごく関係しているんです。ブラジャーやガードルなども今ほど良いものがないわけですから、当時のものを使わないと。1973年当時は今ほどエアロビクスなんかをしていないので、皆ちょっと体型が違ったんです。
ヴァレリー・ファリス監督:
ビリー・ジーンは、アディダスのブル−スエードシューズを履いていたことで有名だったので、この映画をきっかけにアディダスがもう一度復刻させて頂ければと思ったんですが、それは叶いませんでした。
Q:ビリー・ジーンが戦おうと思ったきっかけは、男女の賞金格差が8分の1だったということから始まっていて、そこからWTAの設立に至ったわけですよね。それは50年くらい前の話ですが、最近は女優のジェニファー・ローレンスがハリウッドの男女のギャラの格差について訴えていました。作っている段階で、これほど今のハリウッドとリンクするということは、想像していたのでしょうか?プロダクションと現実とで、どちらが早かったのか教えてください。
ジョナサン・デイトン監督:
この問題は少しは良くなってきているんじゃないかと思います。私達の映画ではスティーヴ・カレルとエマ・ストーンは同じ出演料でした。それにこの映画には、プロダクションデザイナー、コスチュームデザイナー、編集者、また監督にも女性が入っています。
ヴァレリー・ファリス監督:
まだまだ長編監督の女性は少ないということで、こういった戦いは続けていかなくてはならないと思います。ビリー・ジーンは、男女平等だけでなく、いろいろな意味での公平さを目指して戦っていた人なので、ぜひそういったことをこの映画を観て感じとって頂きたいです。
ジョナサン・デイトン監督:
(僕たちの名前を書く順番も)実は、今までアルファベット順ということで、デイトンが先でファリスが後だったのですが、この映画では逆になっていて女性が先になっています。
ヴァレリー・ファリス監督:
これからもずっとそうよ(笑)。
Q:キャスティングの決め手は?
ヴァレリー・ファリス監督:
ビリー・ジーンと一緒にWTAを立ち上げた“オリジナル9”と呼ばれている9人は、映画のために半分はプロのテニス選手、半分は俳優を起用しました。だからプロのテニス選手は俳優として演技も必要だったんです。
ジョナサン・デイトン監督:
テニス選手の方々は、今まで一度も演技をしたことがないのに、突然エマ・ストーンと一緒に演技をしなくちゃいけないとなって、結構大変だったと思います。
ヴァレリー・ファリス監督:
でもやっぱりテニスができる俳優というのが非常に見つけにくかったんです。
Q:劇中でビリー・ジーンが運転している時に流れていたラジオで、エルトン・ジョンの“ロケット・マン”が流れていたと思うんですが、この映画にある試合の2年後に“フィラデルフィア・フリーダム”というビリー・ジーンのために書いたた曲がありますね。その繋がりとして“ロケット・マン”を使ったのでしょうか?それとも70年代を再現するために使ったのでしょうか?
ジョナサン・デイトン監督:
実はビリー・ジーンがエルトン・ジョンの曲が大好きで、しょっちゅう聞いていたという経緯がありました。そして逆にエルトン・ジョンは、ビリー・ジーンのテニスが大好きでいつも観ていたそうで、ある日、彼女に手紙を書いて「ぜひ会いたい」と伝えたそうなんです。それで2人は会って、すごく仲良くなったんです。
ヴァレリー・ファリス監督:
ちょうどこの映画の時代背景が1973年なんですけど、“ロケット・マン”が1973年にリリースされているというのもあって使いました。
Q:初めて映画を作った時の気持ちと、映画監督になる上でこれは一番大切だと思うことを教えてください。
ヴァレリー・ファリス監督:
短く答えるのは難しい質問ですね(笑)。
ジョナサン・デイトン監督:
最初は嫌悪感を感じるということは覚えておいたほうが良いです。でもとにかく続けて頂きたい。
ヴァレリー・ファリス監督:
あまり過去を振り返らないで、前を見たほうが良いです。
ジョナサン・デイトン監督:
実は私達も最初の頃は、監督業、映画作りだけで食べられなかったので、お店でバイトをしながら週末に映画作りをしていました。
ヴァレリー・ファリス監督:
今本当にカメラとかツールはたくさんあるので、簡単に始められると思うんですね。友達と一緒にでも良いですから、どんどん映画を作ってください。
Q:お2人は3作(『リトル・ミス・サンシャイン』『ルビー・スパークス』『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』)とも違う脚本家の方と組んでいらっしゃいますが、脚本家の方、または脚本とどう向き合っているのでしょうか?特に『ルビー・スパークス』は、脚本家が現場にいるという特殊な状況だったと思いますが、気を付けたことがあれば教えてください。
ヴァレリー・ファリス監督:
まず『リトル・ミス・サンシャイン』は、映画を作るまでに4年かかったんです。だから脚本家のマイケル・アーントと一緒に時間をかけて練り上げるという作業をかなり長く続けました。『ルビー・スパークス』の場合は、脚本家(兼出演)のゾーイ・カザンとずっと書き上げて、しかも撮影中も書き直しをして、編集に及んでもいろいろ変えたりして、ずっと同じことをやりました。私達は非常に脚本が大事だと思っているので、一緒に練ってしっかり話し合います。
Q:スティーヴ・カレルは『リトル・ミス・サンシャイン』以来の出演だと思います。当時は二枚目のコメディアンという感じだったのが、本作ではすごい俳優になって帰ってきたわけですが、その変貌ぶりに驚かなかったですか?
ヴァレリー・ファリス監督:
彼は今回偽の歯を付けているので、あまりハンサムとは言えないルックスなのですが、ボビー・リッグスに似せるために、もみあげも生やしたんです。それが何ヶ月も同じだったので、そのくらい彼はこの役にコミットしていたと思います。
ジョナサン・デイトン監督:
アカデミー賞の授賞式にも彼はそのまま行ったので、奧さんは私達にとても怒っていました(笑)。『リトル・ミス・サンシャイン』の時は髭を生やしたし、今回はもみあげということで、あまりルックスは良くないんですよね(笑)。
ヴァレリー・ファリス監督:
エマとスティーヴは、この役のためだったらどんなルックスでも良いという、完全になりきるために必要なことは全部やりますという、そういう姿勢がありました。
Q:お2人にとってFOXサーチライトとは?
ジョナサン・デイトン監督:
サンダンスでプレミアを行った時には、いろいろなスタジオの代表と会っているわけです。ハーヴェイ・ワインスタインにも会っています。彼は断りました。とにかくサーチライトの人達は、どこのスタジオとも違う気がしたんです。社長もいましたし、大勢来ていました。そして私達の作品を一番理解してくださっていると感じました。実際に彼らと組んで本当に良い経験しかしていません。
ヴァレリー・ファリス監督:
やはりFOXサーチライトみたいなスタジオって他にほとんどないと思うんです。
Q:最後にお2人で本作のPRをお願いします。
ジョナサン・デイトン監督:
この映画は、テニスの試合についても描いていますけど、それ以外のこともたくさんあります。家族について、人間関係について、また「自分自身に忠実であれ」、「自分らしく生きる」という、日本の方にとっても、とても重要なメッセージを含んでいると思います。希望と信念を持って、すべてが本当に各々の人間の中から始まる改革なので、人に優しくするとか、忠実というか真実を出すということがすごく大事なことだと思います。
ヴァレリー・ファリス監督:
男女平等というのは今すぐ意識改革をしていかないといけないと思うんです。この映画は45年前の状況が描かれていて、今の私達はかなり進歩してきたと思ったのですが、ここ1年半の現状を見ると、それほど進歩していないのかなという気にさせられます。ぜひ楽しんでご覧になって頂いて、男女平等などを考えて欲しいと思います。
仕事でもプライベートでもとても相性良くやっていらっしゃるのが伝わってきて、お互いに才能もあって、すごく素敵なご夫婦だなと思いました。今作は特に男女の問題を扱っているだけに、ご夫婦(男女)で監督をされたということが、より活きていて、視点のバランスも良いと思いました。名監督、名優が作り上げた本作。ぜひご覧ください。
映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』来日ティーチインイベント:2018年5月31日取材 TEXT by Myson
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
2018年7月6日より全国公開
公式サイト
©Twentieth Century Fox Film Corporation
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