『デビルズ・ダブル−ある影武者の物語—』原作者ラティフ・ヤヒア来日記者会見
2011年12月20日、一度延期になったラティフ・ヤヒア氏の来日が実現しました。本作はラティフ氏自身がウダイ・フセインの影武者としての経験を綴った原作を映画化したもので、彼が20年前に亡命したのち、1991年にこの本が書かれました。
笑顔で登場されましたが、お話を聞いてとても悲しくなりましたし、彼の精神的強さを実感しました。20年前にイラクから亡命した後も夜普通に寝ることはできず、2,3時間寝られれば良い方だそうです。イラクで目撃したことは未だに日常生活に大きく影響し、拷問の傷跡も残っていて、拷問が原因でお医者さんによってはあと2,3年の命だと診断されたそうです。それでも彼は「日々、前に進むしかないという感じです」と話していて、本当に凄い人だなと思いました。
2011年にエジプト、リビアなど中東諸国で革命が起こり、大きな変化が起こったことについては、「20年前に亡命してからも自分の心はずっとイラクに残っていました。中東の変化は嬉しく見守っていましたが、イラクも同じように変化を遂げてくれたらどんなに良かったのにと思います。アメリカの介入なしにイラクが変化を遂げてくれてたらと思いますが、今のイラクは1つの国とは見ることはできません。かつて自分があとにしたイラクという国ではないと思っています。アメリカが介入したことによって、かつては1人のサダム・フセイン、1人のウダイ・フセインがいたところ、今では100人のサダム・フセイン、100人のウダイ・フセインがいる国になってしまいました。イラクは終わったと自分は感じています。自分がイラクに戻る姿は想像できません」と話していました。後に花束贈呈で登壇したデヴィ婦人との会話にも出てきましたが、中東諸国の政治について、アメリカの介入が実際はどう影響しているのかを知り、報道が歪められている恐れもあることは、私たち日本人もよく理解しておかなければいけないと思いました。
例えば、ブッシュ元大統領(パパ・ブッシュの方)がCIAの長官だった頃にサダム・フセインを支持していたのに、同じアメリカがサダム・フセインを倒し、他国に関しても独裁者を支持したのちにその政権を倒したというアメリカの政治のやり方について語られましたが、今回の会見でお二人の話を聞いて、私自身もアメリカが流す情報に流されていることを実感しました。
そして、サダム・フセインの死についてラティフ氏は「処刑したアメリカに対して、そしてその報道ぶりに関しても怒りを感じました。まるでサダム・フセインをヒーローのように扱っているように見えたからです。ウダイ・フセインの死をニュースで観たときも大きな怒りを感じました。殺害されるのではなく、法廷で裁かれて欲しかったし、私が真実を証言する機会も奪われたからです」と話していました。
ラティフ氏が影武者を強制的にやらされていた当時、サダム・フセインの影武者は4人、ウダイ・フセインの影武者はラティフ氏1人だったそうですが、本作を観て、よくこんな恐ろしい事実が本として出版され、映画化できたなと信じられませんほどでした。でも、やっぱりこれまでの道のりは大変だったようです。「私は亡命したときは西洋に希望を抱いていました。そこには発言の自由、人権があると思っていましたが、それを見出すことはできませんでした。西洋に来てからもCIAの手によって拷問を受けました。未だに市民権も得られず、パスポートも持っていません。これは私がアメリカ政府への協力を断ったからです。これまでさまざまな諜報機関の方と会う機会がありましたが、世界の諜報機関のなかで一番教育度が低い、力量がないと感じるのがCIAです。彼らができることは独裁者を支持すること、拷問することだけです。その全くプロフェッショナルでない仕事ぶりに関しては、私の2冊目の本にも書いています。本作の原作本は1991年に書きましたが、1000ページに及ぶこの原作を、アメリカの対イラクのプロパガンダに利用されたくありませんでした。にも関わらず2003年のイラク攻撃の際に“こういう事実がイラクであるからこそ、我々アメリカはイラクを攻撃しなければならないのだ”と利用されてしまいました。そして2冊目の本は2006年に、西洋に移ってからのCIAとのやりとりなどを書きました。しかし、この本は書き上げた途端アメリカで発禁になり、自分のウェブサイトで無料配布していましたが、8度閉鎖に追い込まれ、実は今回の来日の寸前に9度目の閉鎖に追い込まれました」と語り、亡命後の体験談にも大変ショックを受けました。
この映画を観たラティフ氏の感想は、「一度目に観たときは安定剤を6,7錠飲まなくてはいけない状態で、手に持っていたペットボトルを握りつぶしてしまいました。妻が阿一緒にいて“これは映画だから”となだめてくれましたが、拷問のシーンは当時を思い出すようで観ていられませんでした」とのことでした。そんな思いをしてまで伝えてくれた事実をちゃんと受け止めなければいけないなと思いました。具体的に自分にできることはないかも知れないけれど、世界で起きている事実を自分の目で耳で理解するようにしなければいけないなと感じさせられた会見でした。
あまりに過激でドラマチックなので映画のなかだけの話だと思いたいですが、これが事実ということをちゃんと理解して観て欲しい映画です。
『デビルズ・ダブル−ある影武者の物語—』
2012年1月13日より全国公開(R-18)
配給:ギャガ
http://devilsdouble.gaga.ne.jp/
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トーキョー女子映画部での紹介記事
辛口?甘口?映画批評: http://www.tst-movie.jp/hh04_ta/hh04_ta_devils_double.html
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