映画『シェイプ・オブ・ウォーター』来日サロン会見、ギレルモ・デル・トロ監督/菊池凛子(花束ゲスト)
第90回アカデミー賞®最多13部門にノミネートされた本作の監督を務めた、ギレルモ・デル・トロ監督が来日しました。監督は「日本に私の好きな作品を持って来られて大変嬉しいです。この作品はとても美しいおとぎ話で、こういう困難な時代に相応しいと思います。そしてこの映画は、感情と愛について描いていて、こういうものが今すごく希少となっているので、ぜひとも観て頂きたいです」と挨拶しました。司会から、この映画でファンタジックなロマンスを描こうと思ったきっかけと、1960年代を舞台にした時代背景を選んだ理由を聞かれると、「よそ者や異種の者を恐れているこの時代に、このストーリーがすごく必要だと感じました。今は思想として、“よそ者を信用するな、恐れろ”と言われていると思うんです。現代という設定にしていると、なかなか人は聞いてくれないものです。今は本当に愛とか感情とかそういうものがなかなか感じられない、非情に困難な時代だと思うのですが、寓話としてこれを語れば耳を傾けてくれると思いました。現代の設定にしたら、携帯電話やメディアが出てきたり、いろいろなものが出てくると思うんですけど、やはりそれだと語れない部分があると思ったんです。だからこそ、“昔あるところに、声のないある女性がいました。そしてこういう獣がいました”というような語り口だと人々は聞く耳を持ってくれると思いました“アメリカを再び偉大にしよう”という言葉がありますが、それの指す“偉大な時代”というのが1962年のことなんです。世界大戦が終わり、裕福になって、将来について希望を持っていた。人が宇宙に行ったり、ケネディがホワイトハウスにいて、人々は素晴らしい車や家、キッチンやテレビを買って、広告のなかのような世界でした。現実的には1962年というのは、冷戦時代で、今と全く同じように人種差別や性差別があり、まさに今日(こんにち)と同じような時代だと思い、選びました。本当に今日も映画というものが衰退していっていますが、1962年もテレビがどんどん出てきて、映画が少し衰退した時代なんです。ですからそういう時代に、映画に対する愛を込めて、この映画を描きました」と語りました。時代背景にそんな意味が込められていると思うと、なお作品への興味が沸きますよね。
次にキャスティングについて聞かれると「サリー・ホーキンスに関しては、あてがきをしていました。とにかく主人公の女性は、化粧品のコマーシャルから飛び出してきたような若くて綺麗な人じゃないほうが良いと思ったし、30代後半くらいの女性を描きたかったんです。主人公は毎日を普通に過ごしている、バスで隣に座っているかも知れないような本当に平凡な女性。でも本当の輝きや、マジカルな部分を持っている女性なんです。私はサリー・ホーキンスのことを『サブマリン』(リチャード・アイオアディ監督作)で観て、本当に目が離せなくなったんです。彼女は脇役で台詞が少ない役だったんですが、人の言葉を聞く、そして見るというところが素晴らしいと思いました。多くの人々は、良い俳優というのは、台詞を上手く言える人だと思いがちなんですけど、それは少し間違った概念だと思います。一番優秀な俳優というのは、よく聞き、よく見る人だと思うんです。彼女に初めて会ったときに、“この人は口が利けないけど、独白があるし、歌と踊りのナンバーがありますよ”、そして“半魚人に恋をします”と伝えました。そしたら彼女は“素晴らしいですね!”と言いました(笑)。私は彼女こそ、この役にぴったりだと思いました。また、マイケル・シャノンの役に関しては、とても怖いところがありますが、すごく人間的なんです。何しろキャスティングは目で決まります。オクタヴィア・スペンサーの目も、サリー・ホーキンス、マイケル・シャノンも皆目で違う音楽を奏でていると思います。オクタヴィア・スペンサーは、とにかくものすごい人間らしさとユーモアと現実味を出してくれます。(半魚人役の)ダグ・ジョーンズは、世界でも稀な素晴らしい俳優です。彼はあのスーツを着たら、完全にキャラクターになってしまう、そういう特技を持っています。どんなにカメラワークが良くて、エフェクトがあっても、ダグをあのクリーチャーだと思えなかったら、そして美しい川の神であると信じられなければ成立しません。また、サリー・ホーキンスが演じる主人公が本当に愛を込めて彼を見なければ、この映画は成立しなかったと思います」とキャスト達を称賛しました。
水のシーンがたくさん出てくる点で、撮影で苦労されたところがなかったかと質問されると、「映画の冒頭とクロージングの部分は、一滴も水を使わないで撮影しています。これは“dry for wet”という古い演劇手法で撮っています。まずは部屋全体を煙で充満させます。俳優も小道具もすべてワイヤーで吊って、操り人形のようにするんです。カメラはスローモーションで撮ります。そして送風機で風を送って、水の中のような表現をして、ビデオプロジェクターで水の効果を投写しているんです。それから水中の演技のリハーサルを行いました。触れ合ったら、そこから跳ね返るというような水中での動きを練習するんです。でも、中盤で出てくるお風呂場でのシーンは、実際に水の中で撮影しています。2つの手法を使いましたが、それぞれに大変な部分がありました」と、撮影技法を明かしました。どうやって撮っているのか、本編を観ていて不思議に思ったんですが、そんな方法で撮っていたんですね!すごくリアルなので、皆さんも本編でじっくり観察してください。
今度は記者から「監督は25年間という長い間働いていて、映画業界でも高い評価を得ています。今回はアカデミー賞に13部門ノミネートされ、ハリウッドで働く方達から評価を得たわけですが、それについてはどのように思っていますか?そして、この映画では美しいブルーが大変印象的に使われていましたが、監督にとってこのブルーはどういう意味を持っているのでしょうか?」と質問があがりました。監督は「これで2度目のオスカーのノミネートになります。とても嬉しいです。1回目は『パンズ・ラビリンス』で認められてノミネートされたわけですが、『パンズ・ラビリンス』も今回の作品も私自身を表現した作品だったので、そういった作品でノミネートされたことはとても嬉しいです。こういう物語の詩の力強さというものを私は信じています。ファンタジーでしか表現できない美しさというものがあると思います。色についても質問がありましたが、これはすごく綿密に計算されています。主人公のアパートの色は青で、常に水中の色なんです。また、彼女のアパートの壁紙は鱗柄で、これは葛飾北斎が書いた大きな鯉の絵の影響を受けています。彼女の家が青だったら、ほかのキャラクターの家は暖色なんです。オレンジとかアンバー(琥珀色)とか金色とか。そして、赤は、愛と映画なんです。恋をして交わった後から、彼女は赤を着始めて、最後は全身赤なんです。緑は未来を表しています。車やゼリー、パイ、キャンディー、研究所は全部未来を示す緑なんです」と答え、本作へのこだわりの深さを見せました。
さらに「スタンリー・ドーネンの曲や、アリス・フェイの“You”ll Never Know”といった曲が何度か流れてきましたが、その曲に込めた想いがあれば教えてください」という問いには、「映画に対する愛を表現したいと言いましたが、偉大な巨匠の名作ではないんです。例えば、『市民ケーン』『雨に唄えば』のように、ものすごく重要とされている映画を劇場で観るのとは違うんです。私にとっては、メキシコでよく言う“日曜シネマ”というものがあるのですが、そういう類のもの。自分がどん底まで落ち込んだときに、それほど重要視されていない喜劇やメロドラマ、ミュージカルを観ることで、非常に気持ちが上がることがあります。そして、そういう映画にこそ、私はすごく愛を持っています。そういう映画は、本当に観客と繋がるという意図しか持っていなくて、非常にエモーショナルな部分があります。そして、あの歌はとても泣ける歌なんです。映画のなかで、彼女はどれだけ自分が彼を愛しているかを伝えたいのですが、話せないので、そういう言葉が使えないんです。メキシコでは、愛を伝える1番良い方法は歌を歌うことで、愛を語るときには、バルコニーの下からセレナーデを歌うんです。ですから、彼に対する彼女の想いを歌い上げて欲しかった。映画のなかでも、言葉は嘘をつくことができるし、言葉を使える人達は皆混乱している。でも、言葉を発せない2人こそが1番の繋がりを持てるのです。言葉で話せても嘘をつけないのは、歌うときだけなんです」と、熱心に答えました。
そして、この日はギレルモ・デル・トロ監督の代表作『パシフィック・リム』に出演した菊池凛子が花束ゲストで登場。菊池は本作の感想を聴かれると、「本当に美しかったです。昨日ちょうど観たばかりで、まだ感動が冷めやらぬ状態なんですけど、本当に究極のラブストーリーだと思いました。真実というか、本当に深い愛とは何なのかというものを見せてもらったというか。出演されている役者さん皆が、目に叩き付けるようなお芝居をされていて、すごく力強くて美しかったです。本当に何度も観たいと思いますし、監督の愛情がものすごく細部にまで感じられた作品で、ぜひ皆さんにも観てもらいたいと思いました」と絶賛。『パシフィック・リム』で一緒に仕事をして、監督が現場ではどんな方だったか質問されると、「『バベル』という作品に出て、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督に紹介して頂いた時に、“監督の作品に出たいんです”とお話しました。その後に本当に夢が叶いました。見ての通り監督は、愛情深い方で、説得力を持って演出したり、指示をされるので、現場で700人かもっといるすべてのクルーが、本当に監督のすべてに応えたいと思っているんです。『シェイプ・オブ・ウォーター』で思い出したのですが、私は『パシフィック・リム』で、水のタンクプールに、すごく重いスーツを着て入る撮影があったんです。スタントの監督に、“飛び込むシーンは大変危険なので凛子はやりません”と言われていたので、私は飛び込む練習は一切やっていなかったんです。でも撮影が始まったら、ギレルモ・デル・トロ監督から、“じゃあボートから飛んでくれ”って言われて、“あれ?私やるって話じゃなかったけど、どうしよう”と思ったんですけど、監督にできないなんて絶対に言えないので、“やります”と言ってやって、一発OKを頂きました。本当に監督にはできないとは言えないですし、やる気にさせてもらえるところが、監督の素晴らしいところです」と当時を振り返りました。
日本に来て、おせんべいやしゃぶしゃぶなどいろいろ食べて、ジャケットのボタンが締まらなくなったと言っていた、お茶目なギレルモ・デル・トロ監督。「この映画は、ラブソングのようなイメージと音でシンフォニーを奏でるように描きました。車を運転しているとすごく良いラブソングが流れて、一気にボリュームをフルに上げて自分も歌い出す。そういうときの気分を感じて欲しかったんです。ハリウッド黄金時代のような、ちょっとクレイジーでクラシカルな映画だとも感じて欲しい。メキシコの兄弟を助けるつもりで、映画館へ行ってください」と語っていましたが、大いにこだわりを感じさせる本作。この世界観は大きなスクリーンで観ると、より没入できると思います。ぜひ劇場でご堪能ください!
『シェイプ・オブ・ウォーター』来日記者会見:2018年1月30日取材 TEXT by Myson
『シェイプ・オブ・ウォーター』R-15+
2018年3月1日(木)より全国劇場公開
公式サイト
©2017 Twentieth Century Fox
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